水素を燃料にして発電する燃料電池車でありながら、外部電源からリチウムイオン電池に充電することもできる。そんな世界初の燃料電池プラグインハイブリッド車がメルセデス・ベンツGLC F-CELLだ。単なるエコカーではなく、驚くべき運動性能の持ち主である。




TEXT●安藤眞(ANDO Makoto) PHOTO●MotorFan.jp

水素は約3分で充填可能。航続距離は燃料電池+リチウムイオン電池で約377km

メルセデス・ベンツGLシリーズの中で、もっとも豊富なラインナップを揃えるのがGLCクラス。現在日本では8バリエーションが選べるが、その中でもひときわ異彩を放っているのがGLC F-CELLだ。名称はFuel Cell、すなわち燃料電池車(FCV)であることに由来する。

GLC F-CELLのフロントバンパーは専用デザイン。EVや燃料電池車が属するメルセデスの「EQ」ブランドを象徴するブルーのアクセントが各所にあしらわれる。

GLC F-CELLのスリーサイズは全長×全幅×全高=4680×1890×1655mm。

サイドには「F-CELL」ロゴ入りの青いデカールで燃料電池車であることを主張する。

空気抵抗減にも考慮した20インチホイールを装着。ブルーのアクセントも目を引く。

しかしGLC F-CELLは、単なるFCVではなく、外部からも充電可能なプラグイン・ハイブリッド車(PHV)でもあるのが大きな特徴。燃料電池はクルマに積んだ水素と大気中の酸素を反応させながら発電するため、コンプレッサーで送り込む空気の量が増えないと電力も高まらず、応答性はあまり良くない。それを補うために、リチウムイオン電池など二次電池をバッファーとして使うのが一般的だ。




しかも、電気モーターで走るという特性上、減速時には回生発電が行えるため、その受け皿となる二次電池を積まないのは効率面でも不合理。これらの理由から、FCVは二次電池も利用したハイブリッド方式とするのがセオリーなのだが、「ならば電池の容量を増やして外部充電も可能にし、充電した電力でも走れるPHVにすれば、水素ステーションが近くになくても使い勝手が良くなるのでは?」として考え出されたのが、世界初のFCPHVとなるGLC F-CELLだ。




水素タンクは後席下とフロアトンネルに搭載しており、容量は4.4kg(700気圧に圧縮)。FCVとしての航続距離は、欧州WLTPモードで336kmとのことで、日本での実力値もこのくらいになると思われる。充填にかかる時間は約3分と、液体燃料と変わらない。




二次電池はリチウムイオンバッテリーを13.5kWh搭載しており、EVとしての航続距離は41km(欧州WLTPモード)。充電は200Vの普通充電にのみ対応しており、急速充電器は使えない。充電時間は未公表だが、電池容量13.8kWhの三菱製PHEVが3kW充電器で約4.5時間(6kW充電器なら約半分)なので、同程度ではないかと思われる。

ボンネットの下には、燃料電池駆動システムが収まる。
カバーを外すと、ご覧の通り。
水素タンクはリアシート下部とセンタートンネル部に配置(4.4kg分)。13.5kWhのリチウムイオン電池は車体後部に搭載される。

車体後部右側には、水素の充填口が備わる。
リヤバンパー右側には、充電ポートを配置。
メーターでは燃料電池とリチウムイオン電池の設定を確認可能。燃料電池のみの「F-CELL」、リチウムイオン電池のみの「BATTERY」、両方をバランスよく使う「HYBRID」、水素を補給する前にバッテリー充電したり、電力を増やすためにバッテリーの充電が優先される「CHARGE」が選べる。

力強い加速とダイレクトなハンドリング。環境が整う人なら買って損なし!

ということで、購入する際のハードルが少し下がったGLC F-CELL、走らせてみたらどうだろうか?




スタートボタンを押してDレンジに入れ、ブレーキペダルを放すと強めのクリープで動き出す。先日乗ったアウディのe-tronは、クリープ発進しなかった。クリープを作るにはモーターとブレーキを拮抗させなければならないから、制御をうまくやらないと電費の面で不利になりそうだが、クリープはあったほうが運転はしやすい。




発進の際に、内燃エンジン車のつもりでアクセルを踏むと、モーターが瞬時に反応。強めのキック感で走り出す。EVらしいといえばそうだが、もう少し穏やかなほうが安心ではないか。走行中の加速はいつでも強力。最大トルクは370Nmと驚くほどではないが、これが瞬時に取り出せるから、感覚的には5Lエンジンぐらいの力強さがある。

最高出力200ps&最大トルク350Nmのモーターで後輪を駆動する。

走行中は、何しろ静か。モーター音もインバーターの電気ノイズも車内ではまったく聞こえない(車外では電気ノイズが聞こえることがある)。燃料電池に空気を供給するコンプレッサーも、2段過給の電動ターボ式なので(ホンダと同じ)、メカノイズやポンピング音は聞こえない。ロードノイズや風騒音も、よく遮断されている。




乗り心地も非常に快適。ボディ剛性の高さはベース車同様。重厚感があるのは2150kgに達する車両重量も効いている。20インチタイヤも扁平率が50%なので、硬さは感じない。




操舵感はダイレクトで、車重を感じさせないほど回頭性は良い。しかもアクセルオンでグイグイ曲がると思ったら、モーターはリヤのみの後輪駆動。しかも前後重量配分は45:55とリヤヘビー。運動性能が高いのも納得である。

加速の最初期はリチウムイオン電池からの電気を使用、その後、燃料電池で発電された電気を使うなど、2つの電源の特性を巧みに活用する。

特筆して起きたいのがエネルギー回生。箱根ターンパイクの上のほうで、バッテリー走行可能距離が14kmまで落ちたが、下っていったら28kmまで回復した。ここまで回生できるのは、電池容量が多いから。しかも回生ブレーキはダウンサイジングターボのエンジンブレーキより効くから、長い下りでもブレーキペダルの操作頻度が少なくて済む。




走行性能も環境面での合理性も申し分なく、正直「これなら欲しい」と思った。駐車場所に充電設備が作れ、4年リースで月額9万5000円を支払える人なら、買って損はないクルマだと思う。

メルセデス・ベンツGLC F-CELL




■ボディサイズ


全長×全幅×全高:4680×1890×1655mm


ホイールベース:2875mm


車両重量:2150kg


乗車定員:5名


最小回転半径:5.6m


タンク容量:77L+37L


リチウムイオンバッテリー:13.5kWh




■モーター


最高出力:160kW(200ps)/5400rpm


最大トルク:350Nm/4080rpm




■駆動系


トランスミッション:1速固定式


駆動方式:後輪駆動




■航続可能距離


燃料電池+リチウムイオンバッテリー:約377km


燃料電池:約336km


リチウムイオンバッテリー:約41km


水素補給時間:約3分




■価格


1050万円


※原則4年間のクローズドエンドリース契約、車両は4年後に返却となる。
メルセデス・ベンツGLC F-CELL

メルセデス・ベンツGLC F-CELL

インテリアはベースのGLCと同様。メーターは12.3インチ液晶ディスプレイで、センターにも10.25インチ液晶ディスプレイが備わる。

頭上も膝周りも余裕は十分。後席の居住性は申し分ない。
シルクベージュで艶やかな印象の本革シートを装備。
リチウムイオン電池を車体後部に搭載するが、その悪影響は荷室には見られない。使い勝手は良好だ。
後席は4:2:4分割で背もたれを前倒しすることができる。
情報提供元: MotorFan
記事名:「 これは欲しい! 走りも環境性能も申し分ない、世界唯一の燃料電池PHEV車【メルセデス・べンツGLC F-CELL試乗】