消防車は火災が起きた時に駆けつけて、水や泡消火剤で消火活動を行なうもの。誰もがそう思っているだろう。だが、実は水や化学的消火剤を使わずに消火活動を行なう消防車が存在する。それがモリタの『Miracle N7(ミラクル エヌセブン)』だ。

 モリタ『Miracle N7(ミラクル エヌセブン)』の開発は2011年の東日本大震災に遡る。


 消防用設備の設置基準は平常時の火災を想定しており、施設の用途に関係なく同様の消防機能を発揮できるよう規定されている。しかし東日本大震災では建物によって消防設備の被害は異なっていた。


 つまり、このまさに「想定外」の事態によって、地震後の火災に対する防災関連設備の耐震化の課題が浮き彫りとなったのだ。そこでモリタでは既設消防設備の損傷時の新たなバックアップ消火システムの開発をスタートさせた。


 こうして2014年に誕生したのがNEAシステム=Nitrogen Enriched Air System、すなわち『窒素富化空気システム』である。


 NEAシステムとは、窒素78%、酸素21%、その他1%から成る普通の空気から酸素だけを除去して窒素濃度を高めた空気を連続的に放出するシステムだ。つまり火が燃えるために必要な酸素を取り除いた空気(=火がつかない空気)を送り込み、これを消火薬剤として用いようというわけだ。


 消火剤の原料は空気なので、コンプレッサーの動力さえ確保できれば消火薬剤を貯蔵する必要がなく、災害現場において長時間にわたり継続して低酸素濃度環境、つまり「火がつかない環境(=燃えない空間)」を維持することができる。また、可燃性ガスが発生している場所では希釈効果も発揮するため、着火および爆発を抑制できる。従来のガス系消火設備は「火がつかない環境(=燃えない空間)」の維持時間はボンベ容量と本数に依存するため、この差は大きい。


 また、窒素富化空気濃度がコントロールできるため、短時間では人体にほとんど影響がなく、火がつかない酸素濃度(12.5%)を維持することができるため、人命救助と消火・防火の両立が可能になるのだ。


 現在、このシステムを搭載した消防車『Miracle N7(ミラクル エヌセブン)』は、青森県六ケ所村に施設がある日本原燃株式会社に納入されているが、消火活動による水損被害が危惧される洞道(ケーブルトンネル)やデータセンター、重要文化財などへの配備も期待されている。

稼働イメージ

 『Miracle N7(ミラクル エヌセブン)』はフィルタユニット、分離膜ユニット、送気ユニットから構成されており、分離膜容器はポリイミド製の中空糸で構成されており、車両には25 本の分離膜を搭載している。窒素富化空気は、窒素濃度85~99%、送気流量は400~2,500 ㎥/h の範囲で調整可能であり、災害状況に応じて使用することが出来る。窒素ガス供給ホースの振れ軽減機構も装備されているため、送気時の安全性も確保されている。


※ 1 時間に2,500 ㎥の窒素富化空気を放出するときの圧力は約0.3Mpa。窒素富化空気の濃度は85%。

モリタ 窒素富化空気(NEA)システム搭載車 MiracleN7
情報提供元: MotorFan
記事名:「 ご存じですか? 水や消火剤を使わず火を消す消防車があるんです!モリタ『Miracle N7(ミラクル エヌセブン)』