開発ベースはF4シリーズの最高峰となるRCで、最高出力はスポーツネイキッド史上ナンバー1の208ps。もっとも新世代のブルターレ1000RRは、圧倒的な速さとイタリア車の色気が存分に味わえるモデルでありながら、一昔前のイタリア車では考えられない、フレンドリーさを備えているのだ。




REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)


PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)


問い合わせ先●MVアグスタジャパン(https://www.mv-agusta.jp/)

 派生機種や限定車が非常に多いため、門外漢にはいまひとつわかりづらい、近年のMVアグスタのラインアップ。その全貌を説明するには相当な文字数が必要になるのだが、旗艦にして柱となる並列4気筒車の車種は意外にシンプルで、排気量や装備の差異はさておき、系統としては、フルカウルスーパースポーツのF4と、そのネイキッド仕様となるブルターレの2機種である。ただし今年度からは、ブルターレ1000RRをドラッグレーサースタイルに仕立てた、ラッシュが追加される予定だ。

 約20年の歴史を誇るF4とブルターレは、エンジン+シャシーの基本設計を共有している。もっとも、F4が2010年にフルモデルチェンジを受けて第二世代に進化したのに対して、2011年以降のブルターレの第二世代は、エンジンの大幅刷新を図りつつも、シャシーは第一世代の構成を継承。とはいえ、2019/2020年から展開が始まった第三世代のブルターレ1000セリエオロ/RRは、F4の最高峰となるRCのエンジンとシャシーをベースにしながら、数多くの部品を新規開発している。

 第三世代のブルターレで最も驚くべきは、208psの最高出力だ。言うまでもなく、この数値はネイキッド史上最高値で、今年からドゥカティが発売を開始するストリートファイターV4は、明らかに第三世代のブルターレを意識した数値を公表。また、同じく今年度の新型としてカワサキが市販するZ H2も、ネイキッド最強を意識したモデルだが、イタリア勢と比較すると、最高出力はやや控えめな200psで、装備重量はかなり重めの240kgである。なお第三世代のブルターレには、多種多様なカーボンパーツを導入した上級仕様のセリエオロと、通常モデルのRRが存在し、乾燥重量はどちらも186kg。その数字はちょっと不可解だが、おそらく2台の装備重量は、ストリートファイターV4と同様の200kg前後だろう。

 初対面のブルターレ1000RRで僕が驚いたのは、アグレッシブで獰猛で豪華な雰囲気だった。あくまでも個人的な主観だが、エレガントさを感じた先代以前と比較すると、4本出しのセミアップ&ショートマフラーやラジエター左右のウイングレット、大胆な造形のテールカウルなどを採用する第三世代は、何だか欧州のコンスタラクターが製作したカスタムバイクを思わせる。その事実をどう感じるかは人それぞれだが、目立ち度という点なら、現行車では間違いなくトップクラスに違いない。




 では実際にこのバイクを走らせた僕が、どんな印象を持ったかと言うと、最初に感心したのは最先端電子制御の見事な黒子ぶりだ。208psのネイキッドと言ったら、よほどのエキスパートでもない限り、怖さや難しさを感じそうなものだけれど、多種多様な電子制御が乗り手をサポートしてくれるブルターレ1000RRは、大型初心者でも普通に乗れるんじゃないか?、と思えるほどフレンドリー。さらに言うなら、エンジンは5000rpm前後でもなかなかドラマチックな吹け上がりを堪能させてくれるし、ライポジはF4ほどスパルタンではないので(ただし、バーハンドルが定番だった既存のブルターレと比較すると、押し引きはかなり重かった)、このバイクは市街地でのチョイ乗りがなかなか楽しいのである。




 もちろんブルターレ1000RRが本領を発揮するのは、やっぱり見通しのいい峠道やサーキットだ。そういった状況下でも、電子制御は相変わらず見事なサポートをしてくれるので、乗り手としては、思い切ってスロットルを開け、思い切ってブレーキをかけ、思い切って車体を倒し込める。と言っても、電子制御のおかげでそういったアクションができることは、今どきのリッタースーパースポーツとそのネイキッド仕様に通じる話だが……。




 スロットルをワイドオープンしたときに感じる狂おしいほどの雄叫び、最高出力発生回転数の13000rpmに向かってクァーンッ‼というカン高井排気音と共に気分が高揚していくフィーリングは、このバイクならではだと思う。逆に言うなら、速さに特化した今どきのリッタースーパースポーツとそのネイキッド仕様は、もっと真面目で実直な特性なのだが、ブルターレ1000RRのエンジンには何とも言えない色気が感じられるのだ。もちろん、その色気はF4にも備わっている。でも独創的な排気系の出口が乗り手の耳に近いからか、ブルターレ1000RRの色気は、F4の4割増しと言いたくなる印象なのである。




 スペックや構造を見るぶんには、ネイキッド最強を目指したガチなバイクでありながら、ハイパワー車らしからぬと言いたくなるほど乗りやすく、それでいてイタリア車ならではの派手さや色気も備わっている。新世代のブルターレ1000RRは、MVアグスタの今後の指標を示すモデルなのかもしれない。

現代のリッタースポーツネイキッドの基準で考えると、公称シート高はかなり高めの845mmだが、実際の足つき性はライバル勢と同等。ただし、セパレートタイプのハンドルはかなり低めにセットされているので、バーハンドルを採用する他のリッタースポーツネイキッドと比較すると、上半身の前傾度は強め。とはいえ、RCを筆頭とするF4シリーズよりは楽である。
LEDヘッドライトはブルターレシリーズならではの楕円形を維持しているものの、内部構造を刷新。Xデザインの左右には、走行条件に応じて光軸を変更するコーナリングライトを装備。外周部はポジションランプとして機能。

セパハンはトップブリッジと一体のデザイン。スタイルは非常にカッコいいものの、ハンドル交換は大変そうだ。バックミラーはバーエンドタイプ。TFT液晶パネルのマウントステーは、なんとガソリンタンクに固定されている。

メーターは現代のリッタースーパースポーツで定番になりつつあるTFT液晶。4種のライディングモードの切り替えや、トラコン/フロントリフトコントロール/ABSなどの調整もこのモニター内で行う。スマホとの接続も可能。

ウインカーの上に備わるレバーは、TFTモニターの表示切り替えと設定変更で使用。ブレーキ/クラッチのマスターシリンダーはブレンボのセミラジアル。グリップラバーにはMVのロゴが刻印されている。
右側スイッチボックスには、クルーズコントロールとローンチコントロール用ボタン、セル/キル/マップ切り替えスイッチが備わる。スロットルはもちろん電子制御式。

シートのメイン座面は自転車を思わせる構成で、スポーツライディング時のフィット感は抜群。テール周辺にはカーボン素材を多用。MVにそんなことを期待する人はいないと思うけれど、シート下の収納スペースはほぼ皆無。

位置調整機能を備えるステップは、アフターマーケットパーツを思わせる高品質なアルミ削り出し。ストリートを前提とした量産車なので、バーは可倒式を採用している。クイックシフターはアップとダウンの両方に対応。

エンジンはF4RCから継承。他メーカー製並列4気筒との相違点は、サイドではなくセンターのカムチェーン、放射状に配置された吸排気バルブ、セミドライサンプの潤滑方式など。レーシングキット装着時は212psを発揮する。

既存のブルターレシリーズが右側2本出しを定番としていたのに対して、1000RRの排気系は左右2本ずつの4本出し。シートカウルは走行風の通過を考慮した構成で、テールランプとリアウインカーは一体構造。

ブレーキはブレンボで統一。フロントはφ320mmディスク+ラジアルマウント式4ピストンキャリパーで、リアはφ220mmディスク+対向式2ピストンキャリパー。レースモードを備えるABSはボッシュの9Plus。

3.50×17/6.00×17のホイールは、限定車のセリエオロではカーボンだったが、1000RRはアルミ鍛造。タイヤはピレリ・ディアブロスーパーコルサSPを選択する。後輪の前には、排気系の一部となる巨大なチャンバーを設置。

3.50×17/6.00×17のホイールは、限定車のセリエオロではカーボンだったが、1000RRはアルミ鍛造。タイヤはピレリ・ディアブロスーパーコルサSPを選択する。後輪の前には、排気系の一部となる巨大なチャンバーを設置。

エンジン形式:4ストローク DOHC4バルブ並列4気筒


総排気量:998cc


圧縮比:13.4:1


ボア×ストローク:79.0mm×50.9mm


最高出力:208hp/13000rpm


最大トルク:11.9kgm/11000rpm


エンジンマネージメント:MVICSイグニッションシステム


ミッション:6速


クラッチ:湿式多板スリッパークラッチ




全長×全幅:2080mm×805mm


ホイールベース:1415mm


シート高:845mm


始動方式:セル


タンク容量 16L


車両重量:186kg(乾燥)




フレーム:スチールパイプ・トレリスフレーム


スイングアーム:アルミニウム・シングルサイド


フロントサスペンション:オーリンズNix EC φ43mm倒立式


リヤサスペンション:オーリンズTTX


フロントブレーキ:φ320mmディスク+ラジアルマウント式4ピストンキャリパー


リアブレーキ:φ220mmディスク+対向式2ピストンキャリパー


前後ホイール:3.50×17 6.00×17


前後タイヤ:120/70ZR17 200/55ZR17

テスター:中村友彦


1900年代初頭の旧車から最新スーパースポーツまで、ありとあらゆるバイクに興味を示す、雑誌業界23年目のフリーランス。MVアグスタに関しては、近年のレギュラーモデルだけではなく、1972年型750Sや1976年型750Sアメリカ、マーニフレーム車、1999年型F4 750セリエオロなど、貴重車も経験している。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 お値段3,960,000円のバイクって!|MVアグスタ・ブルターレ1000RRは208馬力の最強スポーツネイキッド