もはやすっかり市民権を得たと言えるSUVクーペ市場にポルシェが参戦。カイエンをベースに流麗なルーフラインを持つその姿は、単なる派生モデルの域を超えた美しさを放つ。911にも通じるそのフォルムはポルシェならではだ。




REPORT◉山崎 元裕(YAMAZAKI Motohiro)


PHOTO◉篠原 晃一(SHINOHARA Koichi)




※本記事は『GENROQ』2020年4月号の記事を再編集・再構成したものです。

 2002年に誕生したポルシェ初のSUV、「カイエン」は、その後プレミアムSUV、あるいはスポーツSUVと呼ばれる市場で常にベンチマークのひとつとしてライバルに意識される存在となった。実際にこのカイエンが誕生しなければ、その後のポルシェの大きな加速度を伴う成長も現実のものとはならなかったことを考えると、カスタマーやファンの中から最初は否定的な意見も唱えられたとはいえ、カイエンはポルシェの狙い通りの成功を収めたことになる。




 そのカイエンに、昨年クーペモデルが追加設定された。そう書くとこれまでカイエンに、いわゆる4ドアクーペが存在しなかったことが不思議に思えるが、実際に現行型のカイエンにクーペボディを設定することは開発時から計画されていた商品戦略のひとつであった。この市場では後発モデルとなるわけだが、その分ライバルの存在を十分に検証し、さらに魅力的なモデルを生み出すことが可能になった。




 カイエンクーペ。何ともダイレクトなネーミングではあるが、それは4ドアクーペというボディスタイルと、それに関連するパート以外に、ほとんどのメカニズムをベースとなるカイエンから継承していることを物語っている。つまりカスタマーはボディデザインの好みだけでハッチバック・スタイルのカイエンか、このクーペかの選択が可能になるというわけだが、実際にポルシェが生み出したクーペボディは、シンプルにルーフやリヤセクションのデザインのみをリニューアルしたといった安易なものではなかった。




 実際にボディ後半部のボディパーツは、そのほとんどがクーペ専用のものに変化しているが、さらにフロントウインドウの角度さえも、クーペのそれはハッチバックと比較してわずかに1度ではあるが強く傾斜している。前後のフェンダーラインもクーペ独自のもので、これはよりスポーティで安定感のある走りを可能にするために、ワイドトレッド化をしたことによるものだ。ルーフはグラストップがスタンダード。それがエクステリアでアッパーボディの重さを強く感じさせないひとつの理由となっているが、オプションではさらに軽量な、そしてセンター部分が窪んだダブルバブル風のカーボンルーフを選択することもできる。

インパネ周りは通常のカイエンと同じ。SUVとしての機能性とポルシェのスポーツ性能が見事に融合している。アルミニウムインテリアはオプションだ。

さすがに天井はやや低いが、標準装備のガラスルーフのおかげで、意外と圧迫感を感じないリヤシート。座面はカイエンより30㎜低められている。
クーペはフロントシートが10㎜低くなっており、その分乗降しやすいというメリットもある。撮影車両は14way電動コンフォートシートを装着。


 キャビンは、ポルシェの作らしく機能性を重視したデザインに終始している。もちろん高級感は十分に得られており、クーペボディとなったことで心配された後席まわりの居住性も、実際にシートに着席してみると、想像以上に余裕があることに気づく。ちなみにクーペの後席は薄型の座面を採用することでハッチバックからさらに約30㎜低く設定されているというから、これならば長距離のドライブでも、積極的にパッセンジャーを後席に迎え入れることも可能だろう。荷室はこの後席を使用した状態では、やはりハッチバックと比較すると少ない容量625ℓに限られてしまう。後席を収納すれば最大で1540ℓの容量が得られるのだが、それをどう評価するのか。ライフスタイルの違いもまた、クーペの選択には大きく影響しそうだ。




 今回試乗したカイエンクーペは、そのラインナップでは最もベーシックなモデルとなるもので、搭載エンジンは2995㏄のV型6気筒ターボ。最高出力は340㎰/5300~6400rpm、最大トルクは450Nm/1340~5300rpmと発表されており、レブリミットは6500rpm。これに組み合わせられるトランスミッションは8速のティップトロニックSで、駆動方式はもちろん4WD。前後のトルク配分は電気油圧式制御のマルチプレートクラッチによって行われ、必要時には瞬時に最適なトルクが前後輪に配分される仕組みとなっている。

ラゲッジスペースはカイエンより145ℓ少ない625ℓ。3分割のリヤシートを畳むと容量は1540ℓにまで拡大する。

固定式ルーフスポイラーに加えて、リヤエンドにはアダプティブスポイラーを装備。90㎞/hを超えると135㎜の高さまで上昇する。

もっともベーシックなクーペでも0→100㎞/h加速は6秒を実現。550㎰のターボクーペは3.9秒という速さを誇る。

カイエンクーペは20インチタイヤを装備。ブレーキは4ピストンキャリパーが標準で、Sクーペは6ピストン、ターボクーペは10ピストンとなる。

 カイエンクーペには、ハッチバックのカイエンと同様に、この上にさらに高性能なパワーユニットを搭載したモデルがラインナップされているが、個人的な印象ではこのベーシックな3.0ℓターボ仕様のクーペでも、その走りは十分に刺激的で、そしてライバルに対するアドバンテージは相当に大きいと感じられた。搭載されるエンジンは、そのスペックからも想像できるようにトルクバンドの広さが圧倒的で、アイドリングレベルからレブリミットまで、およそすべての領域で最大トルクが発揮されるため、結果的にその加速は非常に息が長い。




 一方で燃費向上のために採用された8速や7速での走行では、100㎞/hで各々1400rpm、2000rpmと非常に低いエンジンスピードを実現。この状態でのクルージングならば高級サルーンなみの快適さが実現されるし、またここからアクセルペダルを一気に踏み込めば、素晴らしいシフト制御とともに、即座に加速体勢は整えられる。これだけストレスを感じさせないパワーユニットをベーシックモデルに設定するのだから、ハイブリッドモデルを含め、上級グレードはどのような走りを体験させてくれるのか。さらにカイエンクーペというモデルへの興味が高まったのは言うまでもない。




 高速走行時やワインディングでの安定性も実に見事だった。特に印象的だったのは高速域での直進安定性。正確かつしっかりとした手応えを感じさせるステアリングと、前後のマルチリンクサスペンション、そしてPSMに代表されるさまざまな車両安定装置が、常にカイエンクーペの走りを安定方向に導いてくれる。スポーツ、スポーツ+といったモードでの楽しさも絶品だ。SUVクーペの新たな名作がここに誕生した。

横から見ると破綻のない美しいフォルムに驚く。フロントウインドウの傾斜も通常のカイエンより強められており、ポルシェらしいスポーティさを実現。

〈SPECIFICATIONS〉ポルシェ・カイエンクーペ


■ボディサイズ:全長4931×全幅1983×全高1676㎜ 


ホイールベース:2895㎜ 


■車両重量:2105㎏ 


■エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ 


総排気量:2995㏄ 


最高出力:250kW(340㎰)/5300~6400rpm 


最大トルク:450Nm(45.9㎏m)/1340~5300rpm 


■トランスミッション:8速AT ■駆動方式:AWD 


■サスペンション形式:Ⓕ&Ⓡマルチリンク 


■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク 


■タイヤサイズ(リム幅):Ⓕ275/45ZR20 (9J) Ⓡ305/40ZR20(10.5J) 


■パフォーマンス 最高速度:243㎞/h 


0→100㎞/h加速:6.0秒 


■価格:1135万6481円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 Porsche Cayenne Coupé 試乗記