フォルクスワーゲンSUVシリーズの末っ子、T-Crossがいよいよ日本に上陸した。プラットフォームはMQBを採用し、エンジンは1.0Lの直列3気筒ターボを搭載。コンパクトなボディに最新技術を満載させた自信作に山梨県のリゾート地周辺で試乗した。




REPORT&PHOTO●小泉建治(KOIZUMI Kenji)

クラスを勘違いしてしまうほどの上質さ

 まず最初に対面して感じたのは「新しい!」ということだ。写真で見る限りは兄貴分のティグアンの流れを汲むデザインだと思っていたが、実物を目の当たりにすると、明らかに世代がひとつ前進していることを実感させられる。それはデザインそのものの力によるのか、サーフェスやチリ合わせに生産精度の向上が表れているからなのか、もしくはその両方なのか、いずれにせよこのデザインだけでも購入の動機になり得るだろう。




 ちなみに左右のテールランプを結ぶリフレクターバンドとブラックのトリムパネルは、このT-Crossから取り入れられたフォルクスワーゲンの新しいデザイン手法だ。

 乗り込んでみると外観から想像する以上に広々感がある。プラットフォームとパワートレインを共有するポロと比べると、全長が55mm増、全幅が10mm増とほぼ同じで、ホイールベースはまったく同じだ。ただし全高は130mmも高くなっていて(T-Crossの最低地上高の数値が明らかにされていないため、ボディそのものの天地高はわからないが)、これが大きく効いている。




 地上からシート座面までの高さはフロントシートが597mm、リヤシートが652mmで、これは前後ともにポロと比べて約100mmも高くなっている。よって見晴らしが良くなるばかりでなく、アップライトな乗車姿勢となることで前後にも余裕が生まれるのだ。多くのSUVに共通したアドバンテージかも知れないが、とくにスペース的な制約の多いコンパクトなクラスでは影響が大きい。



 搭載されるのは直列3気筒1.0Lターボだ。気筒数と排気量だけ見れば、1270kgの車体に組み合わせることなど一昔前には考えられなかったコンパクトさだが、今さら言うまでもなく動力性能に不満はない。200Nmの最大トルクはわずか2000rpmで発生され、7速DCTでテンポ良くつないでいくことで加速力が途切れることはない。




 MQBプラットフォームがもたらす落ち着いた乗り味と高い静粛性のおかげで、高速巡航も快適極まりない。ただ、その上質さゆえにもっと上のクラスの───つまりキャパシティに余裕のあるエンジンを搭載した上級モデルと勘違いしてしまい、追い越し時に物足りなさを感じてしまう場面があった。




 実際には7速DCTの緻密な制御によって問題のない加速が得られるのだが、そのシフトチェンジのビジーさがイメージと違っていたというか、アクセルを軽く踏み増すだけでシフトダウンすることなく余裕の加速をしてくれるような期待を勝手に抱いていたのだ。

 言い換えれば、直列3気筒1.0Lというコンパクトなエンジンを搭載していることを忘れてしまうほどの上質な乗り味だったということで、それがこのサイズ、この価格で得られるわけだ。




 参考までにWLTCモード燃費は16.9km/Lで、高速道路モードでは19.1km/Lとなっている。トップギヤの7速での100km/h巡航時のエンジン回転数は2350rpmだった。




 ガソリンタンク容量は40Lだから、高速道路だけであれば航続距離は760kmとなる。ぜひともロングドライブで燃費を計測してみたいものである。

ワインディングでは一転して快活に変貌

 一方ステージをワインディングロードに移すと、T-Crossはまた違った顔を見せる。必要十分なトルク……というイメージにとどまっていた高速道路とは一転し、ドライバーが望めばかなり快活な走りが楽しめてしまうのだ。




 とにかく7速DCTの制御が秀逸で、小排気量ターボにありがちな「踏み込んでも加速が得られず、回転が上がるまで待つ必要がある」とか「キックダウンしてものすごく回転が上がってビックリする」といったストレスや安っぽさがなく、限りあるパワーを余すところなく使い切ることができる。




 峠道などで威勢のいいドライブを楽しむ人はポロを選ぶのかも知れないが、走りへの未練を抱きつつもT-Crossが持つSUVならではの魅力に惹かれたのであれば、躊躇なくこちらを選べばいい。



 この完成度の高さを見るに、もはやT-Crossが主流で、さまざまな理由でよりコンパクトなクルマを必要としている人のための選択肢としてポロ“も”用意されている、そんな気すらしてくる。




 コンパクトハッチが大好きで、これまで何台か所有し、一方でSUVを所有したことのない筆者ですらそう感じたのだから、いよいよ時代はそういうフェイズに入ったのかも知れない。

フォルクスワーゲン T-Cross TSI 1st Plus


全長×全幅×全高:4115×1760×1580mm


ホイールベース:2550mm


乗車定員:5名


車両重量:1270kg


エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ


排気量:999cc


ボア×ストローク:82.5×92.8mm


圧縮比:10.5


最高出力:85kw〈116ps〉/5000-5500rpm


最大トルク:200Nm/2000-3500rpm


燃料タンク容量:40L


トランスミッション:7速DCT


駆動方式:FF


サスペンション形式:Ⓕマクファーソンストラット Ⓡトレーリングアーム


WLTCモード燃費:16.9km/L


市街地モード燃費:13.2km/L


郊外モード燃費:17.1km/L


高速道路モード燃費:19.1km/L


タイヤサイズ:215/45R18


車両価格:335万9000円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 試乗記:フォルクスワーゲンT-CROSS(Tクロス)「VWポロから主役の座を奪い取った?」|コンパクトSUVインプレッション