自動車の前軸と後軸は、どれくらいの重量配分が最適なのか──


モーターファン・イラストレーテッド(MFi)では2012年10月から2019年11月までの7年間に試乗した397台のモデルについて、車検証データの前後重量配分を整理した。そこからわかったことは、世の中で「理想」と言われている前後きっちり「50対50」が少数派だということだった。編集部はこのデータに対する専門家の証言を集めた。

MFiが試乗した397台のデータを、横軸に前軸への重量配分(%)、縦軸にホイールベース(mm)にしてプロットした。

その結果、


「FFは前60:後ろ40あたりが基本」


「FRでも50:50きっちりである必要はない」


「AWD(前輪駆動)は、FFベースでも50:50が成立する」


などの興味深い発言を、その理由も含めて聞くことができた。




 そして、残念ながら締め切りには間に合わなかったコメントが、ある欧州のサプライヤーで操縦安定性の組み立てを考えているエンジニアから届いた。その日本語訳を以下に紹介する。




 よく「静的/動的の重量配分を考えると、静的荷重配分にはあまり意味はない」と言う自動車設計者がいるが、クルマの運動は必ず車両重量や重心高さ、前後の重量配分、ホイールベースなどの影響、つまり「もともとの車両諸元」の影響を受ける。




 車両重量が軽いことはあらゆる点で有利だ。重心高が低いことも同じ。車両設計ではつねにこの2点を考える。同時に、ある程度ホイールベースが長いほうが、駆動および制動にともなう動的な荷重移動は小さくなるので有利。ただしホイールベースが長いと必ず車両重量が重くなる傾向が出るから、ここは全高・全幅とのバランスを重視している。




 FFの場合、もうひとつ注意しないといけないのは、加速旋回中に唐突にアクセルペダルを戻したような場合の駆動力消失だ。急な減速で荷重が前輪に移動することによる前輪横力の増加と後輪の横力減少が、同じように起きる。いわゆるタックインだ。車両が不安定になりやすくなることです。




 経験的に言えば、世の中の市販車は結果的に、ある範囲の中に静的重量配分の数値が収まっていると思う。後輪駆動(FR/MR)の場合、加速時と登坂時には駆動輪の荷重が増えるから課題は小さくなる。加速旋回時の課題も、駆動力が減ることによる後輪横力増加と荷重移動による後輪横力減少が打ち消し合う方向だから仕上げはやりやすい。




 また、前後の重量配分はロール剛性の前後差にも影響を与える。重い側の車軸のロール剛性を高くしておかないと、前後のロール角が等しくならない。ロール剛性が高いということは、ざっくり言うと、ばね剛性が高くなるので、接地荷重変化が急激に起きる傾向となる。




 タイヤのトレッド面で接地荷重変化が大きくなると、タイヤ横力変化も大きくなる。ロール剛性が前後で異なると接地荷重変化も異なるので、車両の軌跡変動が大きくなる傾向が出る。これは好ましくない。




 したがって、前後の荷重差が小さいほうが有利と考えられる。実際は、前後軸の重心高さの違い、前後トレッドの違いの影響も受けるので一概には言えない面もあるが、傾向としては存在する。FFなら、トラクション性能も考慮して前60:後ろ40付近に落とし所があるのは事実だ。しかし、その中でも前軸重量を減らす努力をすることは必要だ。




 あとは11月15日発売のモーターファン・イラストレーテッド vol.158でご覧いただきたい。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 自動車の前後重量配分「50:50」が本当に理想なのか!? MFi編集部が試乗した7年間397台の前後重量配分から大検証