ホンダが、第46回東京モーターショー2019で新たな電動スクーターを発表した。ともにビジネスモデルの『BENLY e:(ベンリィe:)』と『GYRO e:(ジャイロe:)』だ。


REPORT/PHOTO●伊藤英里(Eri Ito)

 二輪にも電動化の波がやってきて久しい。各メーカーはモーターショーでコンセプトモデルを発表するし、徐々にではあるが市販車にも注目が集まり始めている。ホンダは今回、ビジネスモデルのスクーター2種のコンセプトモデルを世界初公開した。




 そのうちベンリィe:については、2019年3月に開催された東京モーターサイクルショー2019でプロトタイプがアンベイルされている。今回はコンセプトモデルとしての登場ではあるものの、ベンリィe:、ジャイロe:ともに市販『予定』ということだ。




 そんな新たな電動スクーターについて、ホンダのブースで詳しくお話を伺った。お答えいただいたのは、本田技研工業 二輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発部 完成車統括課 技術主任の武藤裕輔さん、そして同じく前田康幸さんだ。主に武藤さんはベンリィe:、前田さんはジャイロe:を担当したという。

第46回東京モーターショー2019でコンセプトモデルとして登場したベンリィe:

同じく、ジャイロe:

 ベンリィe:は2輪、ジャイロe:は3輪という違いはあるものの、この2種は前述のとおり、ともにビジネス用スクーターである。ホンダの電動スクーターといえばPCX ELECTRIC(PCXエレクトリック)の存在があるが、こちらは現状で法人や個人事業主に向けたリース販売となっている。PCXのようなスクーターのハイエンドモデルの次に、ホンダが電動化に着手したのは、ビジネス用のスクーター。その理由について武藤さんは「ホンダとして、EVを拡大していきたいからです」と話す。




「(拡大していくことを考えると)ビジネスで使っていくお客さん対して展開することが、EV拡大につながると考えたのです」




 ビジネス用スクーターから電動バイクのユーザーを広げ、根付かせていく。そうしたねらいが、ベンリィe:とジャイロe:にはあるという。なるほど、確かにビジネス用であればアプローチの対象が個人単位ではなく会社となることも見込めるため、すそ野を広げることも可能だろう。




 開発は2輪のベンリィe:が先行して行われ、次に3輪のジャイロe:という順で行われた。使える部分は共通化されている。PCXエレクトリックのテクノロジーはこの2モデルにも生かされており、システムの構成はPCXエレクトリックと同等。バッテリーについては、PCXエレクトリックと同様にHonda Mobile Power Pack(モバイルパワーパック)を2個搭載している。

バッテリーはモバイルパワーパックを2個搭載

モバイルパワーパック。家庭用コンセントで充電可能

 航続距離については「詳しい数値は伝えられない(武藤さん)」ということだったが、PCXエレクトリックと同等以上の見込みだ。参考までに、公表されているPCXエレクトリックの一充電走行距離は41kmとなっている(60km/h定地走行テスト値、1名乗車時)。




 ここで気になるのは、PCXエレクトリックからどのように進化したのか、という点である。これについて武藤さんは「制御について進化させた部分があります。走りの部分なのですが、今回はより一層スムーズな走りというのが実現できているのだと思います」と語った。




 電動バイクは初速から高いトルクが出るのが特徴だ。アクセルを回した瞬間から一気に湧き出るパワーがある。電気のパワーレンジなどをコントロールするパワーユニットコントロール(PU)の開発に注力することで、スムーズな乗り味を可能にした。




 さて、それではお二人が電動スクーターを開発するにあたって、内燃機関のバイクとは違った面白さ、また、苦労を感じた部分はどこだろう。




 ベンリィe:の開発を主に担った武藤さんは「電動バイクは今までにないものですから、新しい構成、新しい機構の考え方を切り開いていくところに面白さがあります。(EVのシステムを)どう収めるか、などですね」とのこと。




 一方で、どうEVのシステムを収めるか、は苦労した点でもあるそうだ。「PCXエレクトリックよりもコンパクトな車体になりますから、そこにEVのシステムをいかに積むかというのが苦労したところですね。(電動バイクは)内燃機関のバイクとはまったく別のコンポーネントになります。それをいかに効率よく搭載するかがポイントになると思います」




 主にジャイロe:を担当した前田さんは「内燃機関のバイクとは違って、モーターを動かすために何が必要か、新しい知見を得ることができます。それ自体もおもしろいですし、それを知ったうえでどう配置すると電気的に効率がいいのかを考えながら開発できる点ですね」と、面白さを話す。




 苦労したのは武藤さんと同じくいかにEVのシステムを収めるか、という点。「3輪の場合、スペースは多いのですがスペースがあるから自由におけるというわけではないんです。EVのコンポーネントというのはかなり大きさも重量もありますから。そのなかで、いかに重心を理想に近づけていくか、なんです」




 電動バイクに必要なバッテリーとモーターは重量があり、大きさもある。内燃機関のバイクの場合は重量を重心に近づけることが理想的だとされるが、電動バイクの場合はまずそれぞれのコンポーネントを収めたうえで、理想的な重量配分にすることを考えなければならない苦労があるようだ。




 ホンダの新しい電動バイク、ベンリィe:とジャイロe:の発売についての詳しい情報は不明。まずは市販化を心待ちにしたいところだ。

右のスイッチボックスに備えられたリバースボタン

内燃機関のベンリィをベースとして踏襲している

ジャイロe:の後輪部分。ベンリィe:とジャイロe:はフロント回りはほぼ同じ

ベンリィ プロ同様にフットブレーキを備える

情報提供元: MotorFan
記事名:「 なぜビジネスバイクを電動に? ホンダベンリィe:とジャイロe:【東京モーターショー2019】