日本に上陸したばかりのベントレー・コンチネンタルGTコンバーチブルのステアリングを握る。そんな貴重な機会を与えられた記者。実際に運転してみたら、意外な乗り味に驚かされたわけで……。ベントレーが紳士のスポーツカーと呼ばれる要因は、エンジンの仄かな「バラツキ」にあった?




TEXT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)


PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)

スムーズなのに「回している」という手応えがある

 日本上陸を果たしたばかりのコンチネンタルGTコンバーチブルに地下駐車場で対面する。2mに達しそうな全幅がもたらす異様な存在感にたじろぎそうになるものの、バーガンディのボディにオフホワイトのソフトトップという上品な組み合わせはさすがと唸らされる。存在感はあるけれど、威圧感はそれほどない。




 搭載されるエンジンは6.0LのW型12気筒エンジンで、最高出力635psと最大トルク900Nm(!)というとてつもないパフォーマンスを誇る。




 アクセルに乗せた右足にそっと力を入れる。W12はその強大なパワーを誇示することもなく、2.5tもの巨体はスーッと動き出した。




 トランスミッションがDCTだと知ったのは試乗を終えた後のことだ。走っている間は、てっきりコンベンショナルなステップATだと思っていた。それくらい、発進もシフトチェンジもスムーズだった。でも、最終的にコンチネンタルGTが生粋のスポーツカーだという結果に至ったのは、トランスミッションがDCTだったことも関係していたのだろう。

 走り出してすぐにソフトトップを開け放つ。ただでさえ衆目を集めやすいクルマだ。いつも以上にジェントルな運転を心掛ける。




 しばらくして気づいた。どうにも、これまでに乗った12気筒とはエンジンから伝わる感覚が異なるのだ。




 12気筒はスムーズで静粛性に優れ、エンジンルームの奥の方でシュルシュルとハミングを奏でているのが通例だ。あるいはフェラーリやランボルギーニのように甲高い咆哮を放ち、スムーズゆえにとにかく回りたがったり……。




 ところがコンチネンタルGTは、スムーズなのだがどこか鼓動感がある。実際に身体で明確な鼓動を感じることはないのだが、アクセルペダルを踏む足の裏、そして耳に届くサウンドに、鼓動「感」があるのだ。

V型エンジンをふたつ並べたような、4つのバンクを持つW型12気筒エンジン。長さは抑えられるが、幅がかなり広くなってしまう。吸排気系の取り回しも複雑だ。

 そこでふと頭に浮かんだのが、このクルマが積んでいるのがW型エンジンだということだ。




 シリンダーをW型に配置するという特種なつくりゆえ、コンチネンタルGTのエンジンは吸排気系を含めてとても複雑である。




 そこで点火順序と燃焼間隔を調べてみたが(本当はMotor-FanTECHの萬澤編集長に助けてもらいながら)、エンジン全体で見ても、各バンクごとに見ても、燃焼は等間隔に行われている。そしてV8のような排気干渉は起きていない模様だ。

 ただ、ここまで複雑な構造だけに、どうしても燃焼にバラツキが起きやすい、という話も耳にしたことがある。




 バラツキというとネガティブに聞こえるかも知れないが、不等間隔燃焼にしたり、シリンダーごとにバルブタイミングをずらしたり、エキマニを不等長にしたりと、あえて計算尽くで燃焼や排気のバランスを崩すという手法は実はそれほど珍しいものではない。




 これにより、乗り手が感じる燃焼のリズムの周期が大きくなる。文章で説明するのはとても難しいのだが、例えば「ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド」だと、ひとつの「ド・」が最小単位となって繰り返されるだけだが、「ドドド・ド・ドドド・ド」であれば「ドドド・ド・」がひとまとまりの単位になるから、同じ時間内に同じだけ燃焼していても乗り手にはひとつのサイクルが長くゆっくりに感じられる。




 それによってトルク変動やトラクション感覚を掴みやすくなるのだ。それがスポーツ走行時のドライバビリティの向上に寄与する場合もあるし、ゆっくり走っていてもエンジンを回している実感を得やすいという利点もある。




 ベントレーがその「バラツキ」を抑え込むのではなく、うまく残して演出のために利用している可能性は十分に考えられる。



 ハイエンドサルーンを運転していて「とくに飛ばしているという実感もないまま、なんだかわからないうちにとんでもないスピードが出ている」となるのはよくあることだ。




 ところがコンチネンタルGTの場合、前述のようにジェントルに一定速度で流しているときでも、しっかりエンジンを回しているという手応えがある。実際にはそれほどエンジンが回っていないにもかかわらず、だ。




 コンチネンタルGTはアクセルを戻すとバババッとアフターファイヤ音が発生するが、その音質や音量は極めて理性的で、最近の多くのハイエンド・スーパースポーツのような過剰な演出と言うほどのものではない。それでもドライバーが「スポーツカーを走らせている」という満足を得られるのは、W型12気筒エンジンが生み出す独特のリズム感がもたらすものなのかもしれない。




 12気筒というとんでもなく贅沢なエンジンを積んでいながら、それをひけらかすこともなく、ジェントルに振る舞える。ベントレーのオーナーの多くが紳士的なのは、もちろん彼らの人間性に依るところが大きいのだろうが、もしかしたらベントレーというクルマそのもののおかげかもしれないのだ。

ベントレー・コンチネンタルGTコンバーチブル


全長×全幅×全高:4880×1965×1400mm


ホイールベース:2850mm


車両重量:2450kg


エンジン形式:W型12気筒DOHCターボチャージャー


総排気量:5950cc


ボア×ストローク:84.0×89.5mm


最高出力:467kW(635ps)/6000rpm


最大トルク:900Nm/1350-4500rpm


トランスミッション:8速DCT


駆動方式:フロントエンジン&AWD


フロントサスペンション:ダブルウィッシュボーン


リヤサスペンション:マルチリンク


フロントタイヤサイズ:265/40ZR21


リヤタイヤサイズ:305/35ZR21


車両価格:2831万7600円 

情報提供元: MotorFan
記事名:「 ベントレー・コンチネンタルGTコンバーチブルが想像以上にスポーツカーらしいのは、W12エンジンの「バラツキ」のおかげかもしれないというお話【試乗記】