東京モーターショー2017での発表以来、市販化が待望されていたPCXエレクトリックがついに発売された。といっても、企業向けにリース販売という形でのスタートだ。メディア向け発表会からレポートをお届けする。


REPORT●ケニー佐川(SAGAWA Kentaro) PHOTO●渡辺昌彦(MASAHIKO Watanabe)

フル充電4時間で50キロは走れる

 EVシステムの心臓部に当たる動力源はモバイルパワーパックと呼ばれる48Vリチウムイオンバッテリーを2個直列させて96Ⅴとして使う。これに最高出力4.2kw(定格出力0.98kw)の低速トルクに優れるIPM構造モーターの組み合わせることで、発進からスムーズで力強い走りを実現した。




 スタイリングはPCXを踏襲しつつEVらしいブルーを強調した専用カラーを採用。フレームも基本は共通だがパワーユニットまわりを専用設計とし、見た目の差別化とともにEVならではの上質な乗り心地を追求。バッテリー搭載スペースと後輪可動スペースの関係でホイールベースはPCXから65mm延長されているが、ハガータイプのリヤフェンダーとすることで全長はPCXと同等に抑えている。充電は車体内蔵のプラグによる直接充電の他、パワーパックを取り外して専用充電器(オプション)でチャージする2つの方法を設定。ちなみにフル充電にかかる時間は直接充電で約6時間、専用充電器を使った場合で約4時間となっている。




 気になる走りの性能だが、最高速度は60km/h強、一充電での走行距離は41km(60km/h定地走行)と原二スクーターとしては控えめなスペックに見えるが、これも投入予定国での調査から浮かび上がった数値だという。ちなみに実際の走行に近いWMTCモードでは50km以上の後続距離を確保でき、リサーチ国における8割以上のユーザーの1日当たりの実用距離をカバーできるそうだ。

静かでスムーズ、EVならではの加速感が清々しい

 僅かな時間だが試乗する機会を得たので第一印象をお伝えしたい。スペックでPCXと見比べると最高出力は半分しかないが、一方で最大トルクは1.5倍という逆転している点が興味深い。実はこれがエレクトリックを読み解くカギだ。


 発進加速の力強さはノーマルPCX以上で、試乗会場の狭い敷地内でも想定されているトップスピードにあっという間に達した。そして車重はバッテリーの分で14kg重くなっているにも関わらず、ガソリン車ではエンジン・駆動系とマフラーなどで占められているパワーユニットまわりがEV化によって軽量化されているため、バネ下が圧倒的に軽くハンドリングも軽快だ。これによりリヤサスの吸収性がよくなり、EVの超スムーズな動力フィールに加え乗り心地も一層快適になっている。そして何と言っても静か。モーター音も上品で、まさにクリーンエネルギーを体現したようなライド感が清々しかった。




 ちなみにリース価格は現時点では確定してはいないが、車両本体+モバイルパワーパックが2個付いたモデルなど、いくつかのプランから選べるようになりそうだ。なお、バッテリー回収処理などの法規対応も含めてのリース販売価格となり、250台と少ない販売台数とバッテリーコストに加えことも考えると相応の金額となってはしまいそうだ。




 そして朗報も。東京や大阪において一般ユーザー向けモニター募集や、2019年からはレンタルやシェアリングサービスの開始も予定されるなど、エレクトリックに乗れる機会は確実に増えるはずなので楽しみだ。これらの収集データを基にさらにアップグレードした製品として、ゆくゆくは市販化されるはずなので楽しみにしたい。

ハイテクが詰まったEVシステムだが構造自体はシンプルだ。シート下に前後に搭載されモバイルパワーパックと駆動系を兼ねたモーターユニット、制御ユニットから成る。

48Vのリチウムイオンバッテリーを2個直列させて省スペースで96Vを実現。バッテリー1個の重量は10㎏で2個セットでのみ稼働。脱着はレバーを引っ張るだけでとても簡単だ。

エネルギー効率が高く低回転から高トルクは発生するIRM(磁石埋め込み型)構造のモーターを採用。インホイール方式ではなくモーター本体とリヤアクスルは変速ギヤを介している。

給油口だった部分に収納された2mのコードを持つ車体側プラグを一般家庭で使われているAC100V電源と接続し充電。フル充電まで約6時間、専用充電器で4時間かかる。

専用メーターがEVシステムのさまざまな情報を分かりやすく表示。速度や時計に加え、バッテリー残量や出力制限モードになったことを知らせるインジケータなども装備する。

バッテリー搭載スペースの関係で後輪を後退させたためホイールベースは65mm延長されたが、ハガータイプのリヤフェンダーとすることで全長は35mm増加に留まる。

■主要諸元

通称名: PCX ELECTRIC


車名・型式: ホンダ・ZAD-EF01


全長×全幅×全高(mm): 1,960×740×1,095


軸距(mm): 1,380


最低地上高(mm): 132


シート高(mm)★: 760


車両重量(kg): 144


乗車定員(人): 2


一充電走行距離※6(km) 国土交通省届出値: 41(60km/h定地走行テスト値)


最小回転半径(m): 2.1


原動機形式・種類: EF01M・交流同期電動機


定格出力(kw): 0.98


最高出力(kW[PS]/rpm): 4.2[5.7]/5,500


最大トルク(N・mt[kgf・m]/rpm): 18[1.8]/500


メインバッテリー種類: リチウムイオン電池


メインバッテリー電圧/容量: 50.4V/20.8Ah×2個


バッテリー充電電源: AC100V(単相)


タイヤ: 前/100/80-14M/C 48P、後/120/70-14M/C 55P


ブレーキ形式: 前/油圧式ディスク、後/機械式リーディング・トレーリング


懸架方式: 前/テレスコピック式、後/ユニットスイング式


フレーム形式: ダブルクレードル




■道路運送車両法による型式認定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元)


■製造事業者/本田技研工業株式会社


※6 一充電走行距離は、定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象・渋滞等)や運転方法、車両状態(装置、仕様)や整備状況などの諸条件により異なります。一充電走行距離は、車速一定で走行した実測にもとづいた値です。
情報提供元: MotorFan
記事名:「 最高速は60km/h強。PCXエレクトリックで 電動の時代を肌で感じた/ホンダ試乗レポ