政府は紙やプラスチックなどの健康保険証を、2024年秋頃を目途にして原則廃止し、マイナ保険証(健康保険証としての登録を済ませたマイナンバーカード)に一本化する方針です。

また一本化後にマイナ保険証を保有していない方には、有効期限が1年くらいの「資格確認書」が発行されるようです。

ただ各種の世論調査やSNSを見ていると、こういった政府の方針に対する反対意見が多いため、2024年秋頃を目途にしてマイナ保険証に一本化するのは、かなり難しいように感じます。

仮に一本化できたとしても、システム障害などでマイナ保険証を利用できないなどのトラブルが、当面は発生する可能性があります。

このように健康保険証の原則廃止に関しては、反対意見が非常に多いのですが、2022年4月に年金手帳が廃止されることが決まった際には、あまり反対意見が出なかったような印象があります。

また年金手帳が廃止されてから、もう少しで1年が経過しますが、何かしらのトラブルが起きたという話を、ほとんど聞いたことがありません。

そのため年金手帳の廃止は、上手くいったと評価できるだけでなく、コストの削減にもつながったと思います。

年金事務所への請求手続きとは別に請求手続きが必要となる「厚生年金基金」とは

年金手帳の廃止後は「基礎年金番号通知書」が発行される

年金手帳は健康保険証と違って、提出を求められる場面が少ないのですが、例えば転職して新しい会社などに就職した際には、提出を求められる場合が多いと思います。

その理由としては厚生年金保険に加入する時の書類に、1997年1月に導入された基礎年金番号(すべての年金制度で共通して使用する、各人に一つだけ与えられた番号)を、記入する必要があります。

また表紙が青色の年金手帳には、この基礎年金番号が記載されているからです。

1996年12月以前に発行された、表紙がオレンジ色などの年金手帳を保有している方には、基礎年金番号の制度が始まるタイミングで、この番号を通知するための「基礎年金番号通知書」が送付されました。

これを年金手帳に張り付けるなどの形で、保管している場合が多いと思うので、表紙の色が違っても年金手帳は、基礎年金番号を証明するために活用できるのです。

2022年4月に年金手帳が廃止された後に、初めて公的年金に加入した方や、年金手帳を紛失した方には、「基礎年金番号通知書」が発行されます。

表紙がオレンジ色などの年金手帳を保有している方に送付された「基礎年金番号通知書」と、名称がまったく同じですが、書類の様式などには大きな違いがあります。

ただ基礎年金番号が記載されている点は共通しているので、2022年4月以降に発行される「基礎年金番号通知書」は、年金手帳の代わりとして活用できるのです。

また現在は一部の方を除き、基礎年金番号とマイナンバーが紐付けされているため、年金関連の手続きの際は原則として、基礎年金番号の代わりにマイナンバーを記入しても良いのです。

年金記録を調べやすくした「ねんきん定期便」

年金手帳の中には国民年金や厚生年金保険の記録を、メモする欄が設けられています。

この欄に「厚生年金保険の被保険者となった日(一般的には入社日)」などをメモしておくと、65歳の誕生日の直前などに送付される年金請求書に印字された年金記録に、間違いがないのかを調べる時などに役立ちます。

特に転職の多い方は、入社日や退職日などの記憶が曖昧になりやすいため、メモを取っておいた方が良かったのです。

ただ今から約14年前の2009年4月以降は毎年、誕生月(1日生まれの方は誕生月の前月)になると、ねんきん定期便が送付されるため、記憶が曖昧になる前に、年金記録に間違いがないのかを調べられるのです。

また間違いが見つかった場合には、年金記録の訂正請求などによって、数か月で間違いを訂正できます

そのため国民年金や厚生年金保険の記録の欄に、メモをとっておく必要性が薄れたのです。

なお日本年金機構が実施した「年金記録の確認方法についてのアンケート」によると、郵送調査では75%、インターネット調査では96%の方が、ねんきん定期便を必ず見ていると回答しているのです。

参照:厚生労働省(pdf)

こういった調査結果から推測すると、自分の年金記録や将来に受け取れる公的年金の金額などに対する関心は、世代を問わず高いようです。

50代でも自分の年金に関して知らないことが多い

日銀が2019年に実施した「金融リテラシー調査(pdf)」によると、50代の62.6%は自分が受け取れる公的年金の金額を知らないようです。

また50代の49.5%は自分に対して、公的年金の支給が始まる年齢を知らないようです。

50歳未満の方に送付されている、ねんきん定期便の中には、これまでの加入実績に応じた、老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金など)の金額が記載されています。

例えば20~30代の方は加入実績が短いため、将来に受け取れる老齢年金よりも、かなり少ない金額が記載されてしまうのです。

一方で50歳以上60歳未満の方に送付されている、ねんきん定期便の中には、現在の加入条件が60歳まで続くと仮定した場合の、老齢年金の見込額が記載されているため、将来に受け取れる金額とかなり近いのです。

これに加えて公的年金の支給開始年齢や、各年齢で受け取れる老齢年金の種類なども、50歳以上60歳未満であれば、ねんきん定期便の中に記載されています。

そのため50代の5~6割くらいの方は、自分が受け取れる公的年金の金額や、公的年金の支給開始年齢を知らないという調査結果に、かなりの驚きを感じるのです。

ねんきん定期便の見方を理解することが多くの方の課題

ねんきん定期便を必ず見ている方が多いのに、公的年金の支給開始年齢などを知らない50代が5~6割もいるのは、この見方を理解していないのが理由のひとつかもしれません。

年金記録に間違いがないのかを調べる時に活用できるものとしては、年金手帳の中にある国民年金や厚生年金保険の記録の欄と、ねんきん定期便があると思います。

2022年4月以降は年金手帳の廃止により、前者を活用するのが難しくなるため、これまで以上にねんきん定期便が大切になります。

こういった状況の中で、ねんきん定期便の見方を理解していないのは問題だと思うので、この見方を理解するというのは、多くの方にとっての課題になるのです。

また課題に取り組む時間がない方は、自分で納付した国民年金の保険料や、勤務先を通じて納付した厚生年金保険の保険料が、年金記録に反映されているのかくらいは、毎年調べておきたいところです。

ねんきん定期便は35歳、45歳、59歳といった節目の年齢だけは、A4判の封筒で送付されますが、それ以外はハガキになります。

このハガキ形式のねんきん定期便の場合、「最近の月別状況です」という部分を見ると、納付した国民年金や厚生年金保険の保険料が、年金記録に反映されているのかがわかるのです。

例えば「最近の月別状況です」に記載された厚生年金保険の保険料が、給与から控除された金額より低かった場合、または納付記録に漏れがあった場合、将来に受け取れる老齢年金が少なくなります。

そのため給与明細などと照らし合わせながら、しっかりと金額を確認した方が良いのです。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)

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情報提供元: マネーの達人
記事名:「 年金手帳の廃止から1年、ねんきん定期便の開始から14年で見えた課題