*14:08JST ステップ Research Memo(8):教師の給与引き上げに取り組み、人材基盤を強みに競争力を高める方針(2) ■今後の見通し

(2) 成長戦略
a) 横浜・川崎エリアでのブランド力を高める
ステップ<9795>は中長期的に神奈川県内に特化した学習塾として成長を続けるための戦略として、生徒数の増加が今後も見込まれる横浜・川崎エリアでのシェア拡大を最重要課題として取り組んできた。2023年春の横浜市内の公立トップ校における合格者数は他塾との差をさらに広げる結果となり、横浜エリアでのブランド力は一段と高まったものと評価される。県内最難関校とされる横浜翠嵐高校の合格者数についても2年ぶりにトップに返り咲いている。同社の場合、志望校の選定は生徒の自主性にまかせているため、横浜翠嵐高校の合格者数が急に増加するということは考えにくいが、横浜・川崎エリアの生徒数が増加傾向にあることから、今後も着実に増加する可能性が高いと弊社では見ている。

b) 新スクールの開校は川崎、横浜東部・臨海・南部エリアで推進
今後の小中学生部門における新スクールの進出は、現在13スクールに留まっている川崎エリアで加速するほか、横浜東部・臨海・南部などでドミナント展開する予定である。神奈川県内で今後10年以上、就学人口の増加が見込まれるエリアとして川崎市や横浜市東部、藤沢市などが挙げられているためだ。このため、これらの地域で進学学習塾としての圧倒的なブランド力を確立し、スクールのドミナント展開により生徒数を拡大し成長を目指す戦略となっている。出校に関しては同社が強みとする教務力の品質を維持できる人材(教師・教室長)の育成が条件となるが、小中学生部門では年間3~4校程度を目安としている。

同社が2年前に公表した横浜市、川崎市における今後の展望によれば、同社の地盤である藤沢市は、市立中学校の生徒数に対する塾生数のシェアが2021年10月時点で24.2%に達しているのに対して、横浜市のシェアは8.4%、川崎市は3.0%に留まっている。藤沢市の24.2%は長年にわたって校舎運営の実績を積み重ねてきたものなので簡単に到達できるものではないが、仮に両エリアのシェアを15%と仮定すると、横浜市で約11,600人、川崎市で約4,500人、合わせて約16,100人の中学生の塾生を獲得できる計算となる。2021年10月時点で両エリアの塾生数は約7,400人だったことから、残り約8,700人の獲得余地がある計算となる。また、小学生の塾生は中学生の約2割の水準となっていることから、同じ比率と仮定すれば約1,700人の獲得が見込めることになる。小中学生部門の塾生数は2023年4月末時点で約2.5万人となっており、横浜市、川崎市でシェア15%を達成することで1.4倍の約3.5万人まで拡大できる計算となる。

一方、スクール数については1校当たり150人を前提とすると、横浜市で32スクール、川崎市で22スクール、合わせて54スクールの出校余地が出てくる。年間3~4校ペースで出校したとしても13~18年かかる計算となる。教師やスタッフの人員採用・育成のペース次第ではあるものの、今後も横浜、川崎エリアで継続的にスクールを展開し、シェアを拡大することで安定成長を続けることは可能と言える。

c) 高校生部門はブランド力が高まり、既存校の増床・移転を優先課題に取り組む
高校生部門では、従来3~4年に1校のペースで開校を続けてきた。授業の質を維持しながらスクールを増やす方針のため、新規開校は教師のリソースを確保してからとなる。こうした取り組みを続けてきた結果、大学合格実績もここ数年で躍進的に伸び、神奈川県内の公立高校生を主体とした学習塾としてはトップレベルのブランド力を有するまでになった。1年生では早々に定員に達する校舎も増え、今後も一段と人気が高まるものと予想される。喫緊の課題は、教師の育成と定員に達して募集打ち切りとなっている既存校舎の移転・増床を進めることにある。

d) 学童保育は神奈川県内で校舎展開を進め新たな収益柱として成長する可能性
「STEPキッズ」は、前述のとおり2023年春に開校した白楽教室の収益化の目途が立てば、県内全域へと展開する予定だ。弊社では、同社が知的好奇心を育む豊富なプログラム(15種類)を差別化戦略として市場を開拓する可能性は十分あると見ている。あとはそれを支える人材育成と組織体制の構築が成長のカギを握ることになる。学童保育に必要とされる人材は学習塾の教師とは異なる部分も多く、子どもの可能性や潜在能力を上手く引き出す力が求められる。同社は「STEP」の女性講師で結婚後に育児休職から復帰する人材など、学童保育部門の適性に合った人材を育成する研修カリキュラムを作り、こうしたリソースを拡充する予定だ。

教室展開については、近隣に小中学生部門のスクールがある地域に開校する戦略である。学習プログラムの運営では小中学生部門のスクールの教師や教師経験者がサポートに入るケースがあるためだ。生徒1人当たりの売上単価は約50万円となり、1教室当たりの定員数は120名前後を目安に3~4年で収益化するビジネスモデルで展開する。学童保育部門が本格的に加わることで、対象学年が小学1年生~高校3年生と従来の8学年から12学年と1.5倍に拡大することになり、収益基盤がさらに強固なものとなり成長ポテンシャルも高まることになる。

e) 運営方針と生徒募集活動、価格政策について
同社は今後も校舎数に関しては必要以上のペースで拡大せず、「何よりも授業の質を大切にする」という基本方針を徹底させ、堅実な成長を目指す方針である。またオンライン授業については、今後も対面型の集団ライブ授業を基本にサービス提供を行い、必要に応じてオンライン授業を併用する方針としている。オンライン授業では生徒が「分かる」授業は提供できても、「できるようになる」ところまで持っていくのはハードルが高いと考えているためだ。このことは教師のみならず生徒や保護者の間でも再確認されており、対面型のライブ授業を強みとして今後も展開する方針である。

生徒募集活動については従来、生徒や保護者からの口コミとともに新聞折込チラシでも行ってきたが、チラシ広告については、インターネットをメインとした募集活動に徐々に移行しているところだ。教室ごとのホームページを充実させており、最近では電話による問い合わせよりもインターネット経由の問い合わせが増えているためだ。今後もICTを積極的に活用しながら、長期的なスタンスで生徒募集・校舎運営の体制づくりを行っていく。

なお、昨今の物価上昇や人件費の増加に対応するため、授業料の値上げを実施または予定する学習塾が相次ぐなかで、同社は2023年度も授業料を据え置いた。価格政策については今後も「高品質の授業とシステム」を「安売りせず」に提供する方針に変わりないが、環境の変化にも対応していく必要があると考えており、今後は様々な角度から検討する。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)

<AS>
情報提供元: FISCO
記事名:「 ステップ Research Memo(8):教師の給与引き上げに取り組み、人材基盤を強みに競争力を高める方針(2)