*14:38JST 飯野海運 Research Memo(8):2030年に向けた新中期経営計画を策定 ■飯野海運<9119>の成長戦略・サステナビリティ対応

1. 新中期経営計画「The Adventure to Our Sustainable Future」
長期ビジョン「IINO VISION for 2030」の実現に向けて、2023年5月に新中期経営計画「The Adventure to Our Sustainable Future」(2024年3月期~2026年3月期)を策定し、テーマに「ポートフォリオ経営とカーボンニュートラルへの挑戦」を掲げた。また、同時に理念体系を整理し、企業理念(IINO PURPOSE)は「安全の確保を最優先に、人々の想いを繋ぎ、より豊かな未来を築きます」とした。

重視する財務指標と数値目標については、2026年3月期に収益性で経常利益130~140億円、EBITDA280~290億円、資本効率性でROE9~10%、ROIC4~5%、財務健全性でD/Eレシオ最大1.5倍を掲げた。

前中期経営計画については、円安進行や海運市況高騰という外部要因も寄与して最終年度2023年3月期目標値を大幅に超過達成したが、さらなる収益基盤強化に向けた今後の課題を「成長を見込めるエリアへの営業推進」「成長事業と安定事業への経営資源の適正配分」「新エネルギー輸送への対応とマテリアリティへの取り組み強化」とした。重点戦略としては、「経済的価値の創造」で事業ポートフォリオ経営の推進(成長事業への経営資源配分、グローバル事業の拡張、環境配慮への取り組みと投資推進)、「社会的価値の創造」でマテリアリティの克服(脱炭素社会の実現に向けた計画策定と実行、人的資本の強化、人権尊重への対応)を推進する。

2. 事業ポートフォリオ経営の推進
「経済的価値創造」の事業ポートフォリオ経営の推進については、成長事業への経営資源配分では、脱炭素の加速で成長が見込まれるガス船事業の強化・拡充、競争力向上やシナジー創出につながる戦略投資の実行を推進する。グローバル事業の拡張では、各事業の既存ネットワークを生かした横断的な営業展開、成長の見込めるエリア(特にアジア~中東~欧州)での事業拡張を推進する。環境配慮への取り組みと投資推進では、サステナブルな貨物輸送への対応を継続し、環境負荷軽減に資する船舶や不動産への投資とその管理ノウハウの蓄積を推進する。

なお事業ポートフォリオ経営推進では、3期間合計で前中期経営計画比2倍超となる1,000億円の投資(うち環境関連投資に600億円)を計画している。内訳は成長・新規事業に500億円(外航ガス船に400億円、戦略投資に100億円)、主力事業(ケミカルタンカー、ドライバルク船)に200億円、安定・成熟事業(油槽船、内航・近海ガス船、不動産)に300億円としている。

これにより、現在は成長事業に位置付けている外航ガス船を主力事業にシフトさせ、ケミカルタンカーに並ぶ柱とする方針だ。戦略投資では、本業の競争優位性を向上させるため、事業間シナジーが見込める未参入の船種や不動産物件のほか、再生可能エネルギー関連事業やスタートアップへの投資などにも取り組む方針である。主力事業のケミカルタンカーは強みを持つステンレス船隊による差別化営業の強化やインフレ・環境対応コストを適切に反映したCOAの更改など、ドライバルク船は中長期契約獲得や独自性・差別化強化など、安定・成熟事業の油槽船は既存船の環境負荷軽減への対応とサービス強化など、安定・成熟事業の内海・近海ガス船はアンモニア輸送やLNGバンカリング等の新たな需要への対応など、不動産は築古ビルのバリューアップや海外不動産への戦略的な取り組みなどを推進する。

3. マテリアリティの克服
「社会的価値の創造」のマテリアリティの克服については、2050年までにカーボンニュートラル(CN)を達成するためのロードマップを新たに策定し、2030年についても従来の削減率目標を引き上げた。脱炭素への取り組みを一段と強化する方針だ。

海運業においては、ゼロエミッション燃料(水素、アンモニア)を含めた次世代燃料への本格転換を推進するほか、風力を含む推進性向上・燃費改善設備及びシステムの搭載、バイオ燃料の安定的確保と段階的導入、船上CO2回収・貯留の導入、AIを活用した運航効率改善などにも取り組む。2030年までの次世代燃料船への投資額は、自主運航船(主に中小型のケミカルタンカー・ドライバルク船・内航ガス船)ベースで約650億円、定期貸船(主に大型の油槽船・外航ガス船)も含むと1,500億円の計画としている。不動産業においては、再生可能エネルギー利用の拡大、築古ビルの改修や高効率機器への更新、非化石証書付電力の調達拡大、次世代オフィスビルの知見獲得・保有などにより、脱炭素を推進するともに、競争力強化にもつなげる。

さらに、一層の人的資本の強化や人権尊重への対応にも取り組む。人的資本の強化では、職場・労働環境の整備、多様な人材の確保、人材育成・リスキリングの強化、能力発掘の機会の提供、成果評価・処遇への反映など、人材投資とその価値を引き出す戦略を推進し、会社と従業員がともに成長する好循環の確立を目指す。人的資本強化の主要KPIとして、育児休業取得率(2022年度実績83%、2025年度目標100%)、総合職(管理職候補者)に占める女性比率(2022年度末実績16%、2025年度末目標20%)、海外短期研修・海外駐在経験者(2022年度末累計実績54名、2025年度末累計目標75名)を設定した。人権尊重への対応では、前中期経営計画期間中に飯野海運グループ人権方針を策定した。新中期経営計画期間中には、人権デューデリジェンス(人権DD)を継続的に実施するとともに、調達方針・サプライヤー行動規範の策定(2023年5月に策定済み)、サステナビリティ評価機関の認定取得、社内外における通報窓口の設置、社内人権教育研修の実施などを推進する。さらにサプライチェーンも含めた人権対応体制を確立し、人権尊重への取り組みを強化する方針だ。なお人権対応に関する主要KPIとして、人権に関する研修の受講率(2023~2025年度100%)を設定した。

DXの推進では、IINO DXタスクフォースを組織変更し、2023年6月に新たにDX推進部を設置する。専任者を配置した独立した組織として社内外関係先と連携しながらDX推進を行い、船舶・ビル管理の品質向上(安全・安心の提供)、ESG推進サポート、競争力強化のための事業変革を目指す。コーポレート・ガバナンスのさらなる強化では、取締役会の独立性・多様性確保への取り組みとして、2023年度には女性社外取締役を1名増員する予定で、社外取締役比率は50.0%、女性取締役比率は25.0%となる。

これまでのESG・SDGs経営への積極的な取り組みが評価されて、2022年4月には、グローバルインデックスプロバイダーであるFTSE Russellにより構築されたESG指数「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index」の構成銘柄に選定されている。

4. 中長期的に市況変動の影響を受けにくい持続的な収益拡大を期待
同社の収益は特に為替や海運市況の影響を受けやすいが、従来から市況変動の影響を軽減すべく、中長期契約を中心とする安定収益基盤の強化を推進している。こうした基本戦略に加えて、新中期経営計画で打ち出した事業ポートフォリオ変革やサステナビリティ経営の推進により、市況変動の影響を受けにくい収益構造への転換が進展すれば、中長期的に持続的な収益拡大が期待でき、株式市場においても投資対象としての評価の高まりにつながるだろうと弊社では考えている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)

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情報提供元: FISCO
記事名:「 飯野海運 Research Memo(8):2030年に向けた新中期経営計画を策定