7月20日、フォーリンポリシー誌にRUSI(Royal United Service Institute)の上級研究員エリザベス・ブロー氏が「中国は影響力を買うことができるが、愛を買うことはできない」という興味深いコメンタリーを掲載した。ブロー氏は、米国、ドイツ、イタリアその他の国々で、ヨーロッパの防衛と安全保障に焦点を当てて、ウォール・ストリート・ジャーナル、フィナンシャル・タイムズ、フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングに数多く寄稿している。本コメンタリーにおいて、中国は同じ社会主義体制である東ドイツからソフトパワーについて学ぶ必要があると提言している。

ブロー氏は、「中国はグローバルな一帯一路イニシアティブにより、世界中で多くの友人を獲得できた。また、世界中の経済がコロナウイルスで弱体化している中、中国だけが順調に走り続けているように見える」と観測している。しかし、「最近、この中国の友人と思われた国々からの反発が顕在化してきている」と述べている。具体的には、「中国は、2014年から2017年の間、新しいインフラ建設に意欲的な国々へ1,200億ドルを融資した。これに対し、ケニア、バングラディッシュ、パキスタン、エジプトなどが次々に条件変更や計画中断を申し出ている。タンザニア大統領のジョン・マグフリも前任者の下で署名された100億ドル相当の融資の中断を決定した。極めつけは、10年間にわたって中国の投資を受け入れてきたイギリスが、7月中旬にファーウェイの5Gネットワークの導入を撤回し、フランス、イタリアが同調しそうだ」とのことである。

「中国は世界的な経済ネットワークを構築したかもしれない、しかし商売上の関係はあっても、友情は築いていない。アメリカは超大国の地位を得るため、永年にわたって様々な国と友好関係を築き、ソフトパワーを駆使して驚異的なプラットフォームを築き上げている」とブロー氏は指摘する。そして「中国には明らかな欠点がある。それは、アメリカほど魅力的でないことである。自発的に中国の歌を聴いたり、中国のテレビを見たり、テレビで見る中国の人々の服を着たりする人は、世界中にほとんどいない」と断言している。

具体的な友好関係の構築の要領について、ブロー氏は「同じ社会主義体制であった東ドイツは、かつて国際社会のなかで友好関係を構築する必要があった。しかし、中国と異なり配布するための現金はなかった。そのため比較的安価で、より効果的な戦略として、永続的に個人の愛情を獲得するという独特のアプローチをとった。それは、1951年から1989年、125カ国から78,400人の学生を大学に招聘し、修士号や医学学位を授与するというものであった。卒業生には、国連人民高等弁務官で前チリ大統領ミシェル・バチェレットがいる。また、ニカラグア、モザンビーク、アンゴラ、南アフリカのアフリカ国民会議(ANC)からのゲリラ戦闘員の訓練キャンプも開催した。南アフリカのロニー・カスリルズはアパルトヘイト後の諜報大臣、同じく南アフリカのシフィウィ・ニャンダは通信大臣などの要職に就いた訓練参加者である。東ドイツは、教育機関や友好協会などを通じて東ドイツの魅力を外国人に広めたが、中国は、他国の中国系市民が『祖国』と緊密な関係を築くため、友好協会を活用して人対人の外交に焦点をあてた。東ドイツは、厳密には民主主義のトレーニングを提供していないが、少なくともアメリカが行ったのと同じイデオロギーやビジョンの教育を提供している」と東ドイツの手法を高く評価している。

ブロー氏は、「先日の国連人権理事会における『新しい香港の国家安全維持法』に関する投票で、トーゴ、コンゴ共和国を含む53の開発途上国が中国に賛成し、27の西側諸国が反対票を投じた。しかし、賛成に投じた開発途上国は、中国に反対する選択肢があったのだろうか。中国は、愛や称賛さえ買うことができないことを理解する必要がある。中国は謙虚な社会主義のソフトパワーアプローチを採用しなければ、将来、明晰な開発途上国の指導者により反発にあうだろう」と辛らつに批判している。

覇権の長波理論を提唱するジョージ・モデルスキーは、世界指導国の条件を、(1)島国性(半島性)、(2)安定性と開放性、(3)主導的経済、(4)全世界に力を及ぼすための政戦略組織、であると説いている。このうち「安定性と開放性」については、「人々をひきつける国家の魅力や他国と連携や同盟を作り出し維持する能力」と説明している。中国が今後、世界覇権を取れるかどうかは、ブロー氏の指摘である「国家として、愛や称賛の獲得」やモデルスキーの「安定性と開放性」の追求にかかってくるのであろう。



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情報提供元: FISCO
記事名:「 中国は愛を買うことができないのか?【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】