【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信しているフレイザー・ハウイー氏の考察を2回にわたってお届けする。

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日付が変わる1時間前
2020年6月30日から日付が変わる1時間前、中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法(国家安全維持法、略称NSL)が施行された。 この法律は、全国人民代表大会で最初に提案されてから7週間も経たないうちに、また、草案が林鄭月娥・香港行政長官の目にも触れないまま、香港の高度な自治を保証した一国二制度の枠組みを葬り去った。 一国二制度が終焉を迎えれば、香港は中国国内の他の都市とまったく同様になり、もはや特別な場所ではなくなる。現地の抗議団体のテレグラム(メッセージアプリ)チャンネルには、『香港特別行政地区は、すでに「香港市」だ』という内容を意味する画像が投稿された。

林鄭月娥と数名の高級官僚や実業界のエリートたちは何週間にもわたって、香港の人々が中国共産党を信頼すべきであること、この法律がごく少数の人々を対象とし、香港に平穏を取り戻すことを意図しているということを、声高に語ってきた。 しかし、最終的な条文が公表されたときには、香港における国家安全維持法の最も強力な支持者の一部でさえ、予想以上に厳しい内容であると認めざるを得なかった。結局、中国共産党への信頼は、それほどあてになるものではなかったのだ。

すべての国は国家安全保障に関する法律を必要としており、その点では中国と香港も変わりない。香港基本法には、香港はそうした法律を独自に制定すると明記されている。大陸当局の干渉は想定されるとしても、本当に懸念されるのは、中国共産党が大陸でこうした法律を利用していかに反対意見を抑圧しているか、そしてこの先、非常に広範かつ曖昧に定義された国家安全維持法によって、今まで香港の居住者が享受してきた政治的・個人的自由がいかに劇的に損なわれるか、である。この法律は部分的に非常に厳格であるため、オーストラリア政府は香港に渡航するオーストラリア人に対して渡航注意情報を発し、すでに香港に滞在しているオーストラリア人には安全性を見直すよう勧告するに至っている。

先月私が執筆した「トランプ氏の反中国フォーラム」(※2)では、抗議の画像は新法の下では違法になる可能性があると示唆されていた。 このようなことが事実上すでに発生している。 香港政府は7月2日付のプレスリリースで次のように述べた。「『光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、時代の革命だ)』というスローガンは、現在では『香港の独立』、すなわち香港特別行政区を中華人民共和国から分離し、香港特別行政区の法的地位を変更する、あるいは国家権力を転覆することを暗示するようになっている。」 その後のリリースではさらに踏み込んで、さまざまな政治的表現行為に加えて、香港の抗議運動の「アンセム」として有名な『香港に栄光あれ』を学校で歌うことを禁止した。 図書館は、香港の著名な反体制派や民主活動家の本を、たとえ何年も前に執筆され出版されたものであっても、撤去し始めた。 創意工夫に富んだ香港の抗議活動家は、「光復香港、時代革命」というスローガンの8字分の空白をあけた白紙を掲げ始めたが、白紙であっても警察の怒りを招いている。 この法律は警察の動きを再び活発にし、この法律の施行初日には10人が犯罪者として逮捕された。 警察は、このスローガンが書かれたステッカーを携帯電話に貼っていた少年まで逮捕したのである。

心配する理由
この法律の広範さと厳格さは、香港の北京支持者たちの予想すら超えたものだ。香港市民社会のいかなる側面も見逃されない。学校、大学、メディアを対象とした具体的な条文も存在する。この法律が対象とする4つの主な犯罪は、国家の分離裂、国家の転覆、テロ行為、国家安全保障を脅かす外国または外部勢力との共謀である。これらの犯罪の定義はそもそも非常に広いが、より重大なのは、中国本土の無数の事例が示すように、北京当局が自分たちの目的に合わせて都合よく言葉の意味をねじ曲げ得るということである。党や習近平、当局の政策に対する批判が、このような広い定義の言葉によって捕捉される恐れがある。それどころか、こうした犯罪は香港で行われる必要はなく、香港に影響を及ぼす必要すらない。第38条は効力が全世界に及ぶことを規定しているため、党を批判する者が香港で飛行機の乗り継ぎをすると危険にさらされる恐れがある。香港は、新型コロナウイルスの大流行が起こる前はアジアにおける最大の国際的中継地の1つだったのだが。党は明らかに、党に対するあらゆる形態の抵抗や批判の拠点として香港が利用されることを懸念しており、香港で乗り継ぎをする人の声すらも、すべて追放し鎮めることを望んでいる。世界中の誰もがこの法律に引っかかる可能性があるのでは、この法律の対象となるのは香港のごく少数の人々に限られるという約束はもはや意味を持たない。

また、同法第48条に基づいて北京の中央政府直轄の事務所を香港に設置することにも大きな関心が寄せられている。 この事務所は明らかに香港の警察と法制度の管轄外にある。 また、本土の外で活動していることから、中国本土の刑法の管轄外でもあり、文字通り法律を超えて活動しているように見えるのである。 これは香港の人々が期待しているコモンローによる抑制と均衡に完全に反する。 しかし、国家安全維持公署職員のまるでジェームズ・ボンドのような「00」という地位に目を奪われて、すでに確立され完全に稼働している香港警察に対して第43条が与えた広範な権限を忘れてはならない。 この条項は、所有物や電子機器を捜索する際の警察の権限を大幅に強化し、資産の差し押さえや凍結、情報提供の強制、インターネットに掲載された情報の削除や修正を行う権限を規定している。これらの権限は極めて大きな懸念材料である。 すべての国がテロの脅威に直面しているとか、他の国もそのようなルールを持っているなどと訴えても虚しく響く。なにしろ香港の脅威には、学童が歌を歌うことや白紙の紙を掲げることが含まれているのである。 中央政府が立法をコントロールしている以上、この法律の文言と権限が党や政府の批判者を追い回すために悪用されないなどと信じることはできない。

『香港特別行政区は、すでに「香港市」(2)【中国問題グローバル研究所】』へ続く


※1:https://grici.or.jp/
※2:https://grici.or.jp/1475

写真:「香港特別行政区は、すでに香港市である」( 出典:香港の抗議団体のテレグラムチャンネルに投稿された作成者不明の画像)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 香港特別行政区は、すでに「香港市」(1)【中国問題グローバル研究所】