足もとでは、イランの経済は制裁が効いている。いくらロシアや中国との連携を通じて何らかの抜け穴を作っていたとしても、経済が弱くなりつつあり、インフレも進んでいる。国力に対するダメージは本物であることは強く推察できる。この背景もあり、イランは革命防衛隊のコッズ部隊などを通じて、中東でのシーア派コミュニティを基軸とした武装組織を支援することにより、地域影響力を獲得することに余念がない。むしろこのような手段でしか戦略的な距離を取れない。

このような状況下、イランは限定された地域覇権のための動き・工作をできる「程度」の力はあるが、通常戦争、しかも米国相手は経済制裁の影響などによりあまり考えられない。逆に、低強度紛争を長期にわたって維持する程度の力と影響力はある。

イランの外交対応については「対西側」で紳士的、「対中東」でいくらでも残酷になれるという二面性を持っていることも念頭に置くと、全般的に中東をひっかきまわすことをメインに行動すると考えられる。したがって、西側諸国や中東の地域大国を全て敵に回したタンカー戦争のようなことをイラン側が先制的にやるとは考えにくいし、そのタンカー戦争をやるために米国による直接攻撃に対抗するための本国防衛と、長期戦略としての中東地域工作に必要なリソースを割くとも考えにくい。ただし、中東をひっかきまわす行動の一つとして、一部油田に対する限定的な攻撃はオプションとして残る。いずれにしても、どのオプションが採用されるかは、イランのバランス感覚と地域・外交情勢によって完全に左右される。

今まではイランの支援があった民兵がやったことや、もしかすると革命防衛隊の特殊部隊がやったことを知らぬ存ぜぬとして通していたことを、今後については面子のためにも「イランが指導した」「革命防衛隊の大活躍」と宣伝する可能性がある。実際、1月8日にアメリカ軍基地に対してイランが弾道ミサイルと自称しているものを発射して、これはイランの「手柄」であることを大々的に国内でも宣伝している。

ただし、原則としては工作を時に派手に、基本的に静かに中東情勢を引っ掻き回す形で、ヒズボラなどイラン寄りのシーア派による基盤の強化を目指すと思われる。長期的に見ると、確実な基盤強化のほうが利益を生むためである。そもそも、2021年までにはトランプ政権の第二期、よって「タフガイ」を演じる必要性が低くなった時点で「ディール」をするのか、緊張緩和に前向きな民主党政権までイランにとっての戦略的な忍耐を貫くことも計算の内であると見られる。

トランプが在任中でイランの現政権がそのまま居座る場合は、ソレイマニ司令官殺害によって顕在化した問題は長引くものと見られる。

地経学アナリスト 宮城宏豪
幼少期からの主にイギリスを中心として海外滞在をした後、大学進学のため帰国。卒業論文はアフリカのローデシア(現ジンバブエ)における経済発展と軍事支出の関係とその周辺の要因についての分析。大学卒業後は国内大手信託銀行に入社。現在、実業之日本社に転職し、経営企画と編集(マンガを含む)も担当している。歴史趣味の延長で、日々国内外のオープンソース情報を読み解いている。



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情報提供元: FISCO
記事名:「 イランは低強度紛争を長期にわたって維持、ソレイマニ司令官殺害から見る中東力学【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】