【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。所長の遠藤 誉教授を中心として、トランプ政権の”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、また北京郵電大学の孫 啓明教授が研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」にて配信している。

◆中国問題グローバル研究所の主要構成メンバー
所長 遠藤 誉(筑波大学名誉教授、理学博士)
研究員 アーサー・ウォルドロン(ペンシルバニア大学歴史学科国際関係学教授)
研究員 孫 啓明(北京郵電大学経済管理学院教授)

◇以下は、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉所長の考察「駐日米国大使「ファーウェイは国有企業」発言を検証する(1)【中国問題グローバル研究所】」」の続きとなる。

◆「ファーウェイは国有企業だ」発言の正否に関して

駐日米国大使ハガティ大使が「ファーウェイは国有企業だ」と言ったことが正しいのか否かに関して検証してみよう。


ファーウェイが「従業員持ち株制度」を実施していることは、関心のある方なら誰でもが知っている周知の事実だ。その株主の割合に関して、オランダの国際会計事務所であるKPMGが会計監査をしているデータがある。

KPMGは1870年に設立された国際会計事務所で、今では世界4大会計事務所の一つになっている。現在の会社名はパートナーとして加わった設立者の名前の頭文字を取って付けられた(K:Piet Klynveld、P:William Barclay Peat、M:James Marwick、G: Reinhard Goerdeler)。


中国政府が管理している公開情報「国家企業信用信息(情報)公示系統(公開システム) 」(National Enterprise Credit Information Publicity System)(広東省)によれば、ファーウェイの株の持ち主に関する割合は2018年12月28日の時点で、任正非が1.0100%で、ファーウェイの工会委員会(労働組合=従業員)の持ち株が98.9900%であることが明示してある(この割合は、年によって0.1%~0.4%前後で変動がある)。ここには明らかに「中国政府」の持ち株がない。

これを監査しているのが、上記のKPMGだ。ファーウェイは2000年からKPMGの監査を受けてきたようで、これに関しては「ファーウェイ 2018年アニュアル・リポート(年次報告書)」、あるいは日本語でなら、2017年度アニュアル・レポートに書いてある。日本語で「外部監査人」という項目があるので、そこをご覧いただきたい。

念のため、英語版の2019年3月27日付のKPMGによる記述部分も紹介する。

国有企業には、必ず中国政府の持ち株がある。KPMGが、中国政府の持ち株はゼロであるということを証明しているので、まあ、やはりファーウェイが国有企業でないことは、国際的標準で証明されていると言っていいだろう。

◆アメリカには不利になる
それなのになぜ、米国大使ともあろう大物が、このような、誰にでもすぐに分かってしまう「事実と異なること」を堂々と言ってしまったのだろうか?

まさか、テレビ朝日の報道局が、「国有企業とは何か」を知らないということはあるまい。知っていたら、「アメリカの名誉のため」あるいは「ハガティ大使の名誉のため」に、この場面をカットして報道するのが「親切」というものだろう。


いずれにせよ、このような明白な虚偽の根拠に基づいてファーウェイを危険だとして排除しているということは、いかにもアメリカが根拠なしにファーウェイを攻撃しているかのような印象を与えて、アメリカにとっても不利となり、それが残念でならない。

なぜなら、言論弾圧を続ける中国共産党の一党支配体制を崩壊させる力は、今のトランプ政権以外には、この70年間、誰も持っていなかったからだ。これは自由主義陣営と社会主義陣営の闘いであり、価値観の闘いでもあるとして、大きな期待をかけていた者も少なくないだろう。


もっとも、中国政府は今でこそファーウェイを支持しているような格好をしているが、実は1990年代までは、むしろ中国政府はファーウェイを潰そうとしていた。その証拠は1993年と94年の国務院令に残っている。

たとえば2009年8月17日の人民網に載っている「中国金融60年大事記 1993年」
の4月の欄には国務院弁公室が、国家体制改革委員会と国家経済貿易委員会および国家証券委員会に発布した「内部職工による持ち株制を即刻停止せよ」という正式な国務院令の記録が残っている。従わなければファーウェイの任正非CEOを逮捕するというところまで事態は深刻化していた。

中国政府に虐められて、中国の銀行からの融資を受けることができずに従業員(内部職工)に跪いて、従業員がどこかから融資を持ってきてくれることを頼んだのが、ファーウェイの従業員持ち株制度の始まりだった。

だからファーウェイは中国を飛び出し、海外に発展の可能性を求めるしか道がなかったのだろう。海外の銀行がファーウェイに融資してくれた。ファーウェイがこんにちまで融資を受けた金融機関のほとんどは中国以外の国の銀行であって、中国の商業銀行からの融資の割合さえ、その値は極端に小さい。

しかし今、トランプ政権からの激しい攻撃を受けて、中国政府とファーウェイの距離は縮まりつつある。

(この評論は6月15日に執筆)
(つづく~「駐日米国大使「ファーウェイは国有企業」発言を検証する(3)【中国問題グローバル研究所】」~)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 駐日米国大使「ファーウェイは国有企業」発言を検証する(2)【中国問題グローバル研究所】