〇「トランプ孤立」は何処まで響くか〇

すっかり影が薄くなったが、欧米のエスタブリッシュメントが集まる今年のビルダーバーグ会議は6月1~4日、米バージニア州シャンティイーのマリオットホテルで開催された。会議は非公開で何が話し合われたかは分からないが、ここで決められた方向性が、G7やG20サミットで周知徹底される(今年は主要首脳の初顔合わせだったG7は5月だったので、先週終了したG20に関心が集まった)とされる。大立者のデヴィット・ロックフェラー氏が3月に亡くなり、以前のような影響力は既に無いとの見方もあるが、ウォッチャーによると、今年彗星のごとく現れ、欧州を平穏化させたマクロン仏大統領は14年からのビルダーバーグ・メンバーで、一定の影響力を保持していると考えられる。

ウォッチャーによると、今年の会議の主要テーマは「トランプ」だったそうだ。特に、温暖化対策の「パリ協定」離脱に批判が集まったと言う。トランプ政権から、ロス商務長官やマクマスター国家安全保障担当等が参加していたので、集中的に非難を受けた可能性はある。G20サミットで議長のメルケル独首相が「19:1」を宣告したのも頷ける。ただ、「トランプ孤立」は報じられたが、「トランプ追放」のような機運は見当たらなかった。「ロシアゲート」やメディアのトランプ攻撃はトーンダウンしている印象があり、弾劾説まで出ていたことを考えるとリスクは後退していると思われる。

トランプカードが逆に使われる可能性がある。端的に言えば、温暖化対策を中国やインドなどに強く迫る狙いが「19:1」に込められている可能性だ。仏環境相は「2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を終了させる」と発表。ドイツの環境保護団体ウルゲバルトは「中国企業約250社が世界各地で進められている約1600の石炭火力事業の半分に関わっている」とする報告書を発表した。「もし中国政府が本気で世界の気候問題で指導的役割を担いたいなら、国営企業の動きを抑える必要がある」と手厳しい。

トランプの保護主義を非難しながら、欧州自ら自由貿易に転換した可能性(欧州の貿易は関税ではなく、規制でかなり制限されている。例えば、カステラは元々は欧州からの伝播だが、卵・牛乳加工品と言うことで輸入は認められておらず、日本酒でも一升瓶や四合瓶は認められていなかった。「日本ワイン」も認められる可能性がある。日欧EPAはこれら一つ一つの壁を取り崩す作業が始まることを意味する)がある。二国間でもTPP11のような域内でも、実質的な自由貿易化を推進する必要性を改めて認知した可能性を追求したい。

G20声明で落ちた案件も注目される。ブレグジットと北朝鮮だ。既に課題推進の各論に入って、G20のような場で合意姿勢を見せる必要がない、あるいは利害対立が想定される局面に入っている可能性がある。ともにG7で謳っていたことと対照的だ。各論の進行が注目される。

今週の相場は、強めの米雇用統計(ADP民間雇用報告とは2回連続裏目)で7月上旬の売りが一巡した可能性が考えられる。米GSの格下げで電気自動車テスラ株が急落するなど、チグハグな面があるが、米10年物国債利回りは2.3856%まで上昇、米債強気派(米景気懐疑派)の手仕舞いが続く公算がある。日経平均はフシ目の20500円を目指した攻防を想定する。

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出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(17/7/10号)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(1):◆トランプカードは有効か◆