トヨタ車のエントリーモデルの一翼を担う定番コンパクトカーのターセルは、1986年5月になるとハッチバックの全面改良が実施され、3代目となるL30型系に移行する。FFレイアウトの搭載エンジンは従来の縦置きからオーソドックスな横置きに刷新。ボディスタイルは新感覚の3タイプを設定した――。今回は“ニューテック・フォルム”を謳って登場した第3世代の“隼=TERCEL”で一席。



 





【Vol.96 3代目 トヨタ・ターセル】



 



若々しくてフレッシュなスタイリングや明るくワイドなイメージのキャビン空間などを創出し、ヒット作に昇華した2代目のターセル(と兄弟車の2代目コルサおよび初代カローラⅡ)。FF大衆乗用車の定番モデルに成長した同シリーズのフルモデルチェンジに際し、開発陣は販売の中心となっていた2ボックス車の3/5ドアハッチバックだけの全面改良を決断する。3ボックス車のターセル(とコルサ)4ドアセダンについては、従来型をベースに内外装を一部変更するのみにとどめた。





この選択に関して、当時のトヨタ自動車のスタッフは「4ドアセダンを廃止する計画もあったが、販売側(ターセルがビスタ店、コルサがトヨペット店)からコンパクトで安価なセダンを残してほしいという要望があり、マイナーチェンジの形でラインアップすることにした。両店ではカローラ(カローラ店扱い)やスプリンター(オート店扱い)のようなベーシックセダンがなかったので――」と、その内情を解説する。加えて、「そのぶん、2ボックス車の全面改良は思い切ってやった」そうだ。



 





■メカニズムと内外装を大刷新してデビュー





3代目となるターセルを企画するに当たり、開発陣は2ボックス車のユーザー志向を徹底的に精査する。そして、近年の2ボックス・ユーザーはスポーティ志向の若者層からファッショナブル志向の女性層、経済性および実用性重視のファミリー層まで、多様化かつ個性化していることを把握した。また、すべての層に共通して、クルマの質感向上や高性能化、機能性のアップなどを求めているのが分かった。



 





この傾向に対応するため、開発陣はターセルのボディスタイルを3タイプに大別する。スポーティ志向にはクラス初のフルリトラクタブルヘッドライトやフラッシュサーフェス化したキャビンなどを採用する3ドア(発売時の名称は3ドア・リトラ)を、ファッショナブル志向には薄型ヘッドランプや明快なサイドシルエット、利便性の高い装備類を持つ3ドアを、実用性重視の層にはシックスライトウィンドウのスタイルにロングキャビンを有する5ドアを創出した。同時に、ボディカラーでは透明感と輝きのあるニューメタリック色を開発し、ウォームグレーメタリックやベージュメタリックなど計6タイプを設定する。ボディサイズは全長3865×全幅1625×全高1370~1380mm/ホイールベース2380mmと、従来型よりショート&ワイド&ローのディメンションに仕立てた。



 





一方で内包するインテリアは、ボディタイプやグレードの性格に合わせていっそうの装備充実化と機能性能の向上を図る。スポーティモデルには、6眼メーターや表皮一体成形新スポーツシートなどを装備。また、ターセルはクルマのキャラクター上、女性ユーザーの割合が非常に高いモデルだったことから、女性向けグレードの運転席に最適な運転姿勢を確保する世界初のデュアルスライドシートを採用した。ほかにも、センタークラスター内にカップホルダー/カセット/ラジオ/小物入れ/灰皿などをユニットとして好みの位置にセットできるフリーラックコンソールを組み込んだ。



 





開発陣はメカニズムについても大刷新を行う。搭載エンジンは新開発の“レーザー3E-12バルブ”3E型1456cc直列4気筒OHC12V(79ps)と“レーザー1Nディーゼルターボ”1N-T型1453cc直列4気筒OHCディーゼル+ターボチャージャー(67ps)、改良版の“レーザー2E-12バルブ”2E型1295cc直列4気筒OHC12V(73ps、パーシャルリーンシステム仕様67ps)という3ユニットを設定。駆動レイアウトは従来の縦置きエンジンから横置きエンジンのFF方式に一新した。同時にオートマチックトランスミッションには2ウェイオーバードライブ付4速ATと2ウェイ3速AT、3速ATの3形式を用意し、イージードライブの需要に対応する。シャシーに関しては、フロントサスペンションにマクファーソンストラット式を、リアに新開発のスタビライザー内蔵トレーリングツイストビーム式を採用し、操縦性と走行安定性の向上を実現。また、女性向けグレードおよびスポーツパッケージには、エンジン回転数感応型パワーステアリングを装備した。





3代目となるターセルは、兄弟車の3代目コルサ/2代目カローラⅡとともに1986年5月に市場デビューを果たす。キャッチフレーズは“ニューテック・フォルム”。グレード展開はスポーティ仕様の3ドア・リトラVS、3ドアおよび5ドアのVX/キューティ/VL/VCをラインアップした。



 



 





■スポーティバージョンの「GPターボ」の設定



 





兄弟車と合わせて“ターコル”の略称でも呼ばれた第3世代のターセルは、1986年9月になるとスポーティ志向の真打ちといえるモデルを追加する。3ドア・リトラ・GPターボの設定だ。搭載エンジンは新開発の“レーザーα3E-12バルブターボ”3E-T型1456cc直列4気筒OHC12V+空冷式インタークーラー付2モードターボで、パワー&トルクは通常モード時が110ps/17.2kg・m、LOモード時が97ps/15.2kg・mを発生する。また、GPターボでは足回りの強化や内外装のスポーティな演出、TEMS(トヨタ電子制御サスペンション)および新プログレッシブパワーステアリングのオプション設定化なども行った。さらに、1988年5月にはマイナーチェンジを敢行。内外装の一部刷新やグレード構成および呼称の変更、キャンバストップ仕様の設定などで新鮮味をアップさせる。同時に、3E-Tエンジンは排気系の改良などでパワー&トルクが115ps/17.5kg・m(LOモード時105ps/15.6kg・m)に引き上がった。そして、1990年9月には全面改良を実施。第4世代のL40型系に移行した。





ユーザー志向を大別してグレードごとのキャラクターを鮮明化し、2ボックス車としての魅力度を存分に高めた第3世代のターセル。その開発指針は、以降のモデルにも鋭意引き継がれていくこととなったのである。


情報提供元: citrus
記事名:「 【中年名車図鑑|3代目 トヨタ・ターセル】リトラのGPターボが印象的だった2ボックスの定番