ビール女子のみなさま、こんにちは!ポートランド在住の東リカです。

ポートランドの女子ブルワーをリレー形式で紹介する本企画!前回お話を伺った「マイグレーション・ブリューイング」のローレンさんは、「ヒーター・アレン・ブリューイング(Heater Allen Brewing)」のヘッドブルワー、リサ・アレン(Lisa Allen)さんを紹介してくれました。



ヒーター・アレン・ブリューイング(Heater Allen Brewing)


「ヒーター・アレン・ブリューイング」は、2007年にポートランド郊外のワインカントリー、マクミンビル市(McMinnville)に、リック・アレン氏が創業したドイツ&チェコスタイルのクラフト・ラガー・ブルワリー。2017年以降は、娘のリサ・アレン氏がヘッドブルワーを務めています。
本格的なジャーマンスタイルに定評があり、中でもフラッグシップビールの「Pils」は、ビール関連メディアやビール好きの間にもファンが多く、アメリカを代表するクラフトラガーだと考える人も少なくないようです。


早速、ポートランドから1時間ほどドライブし、マクミンビルにあるヒーター・アレン・ブリューイングにお邪魔してきました。

銀行員だった父が始めたブルワリー


リサさん、こんにちは!素敵なところですね。まずは、こちらのブルワリーについて教えてください。


  リサさん


ヒーター・アレン・ブリューイングは、2007年に元銀行員だった父が始めたブルワリー。「ヒーター・アレン」という名前は、父の名字と母の旧姓を組み合わせたものなの。両親もポートランドで暮らしていたんだけど、ドイツ風のクラフトラガービールを専門につくるために、ピルスナー誕生の地・ピルゼンのような軟水が出る、マクミンビルに拠点を移したの。マクミンビルの水は、市が水源を所有しているから気候に左右されることなく、安定して使えるのよ。ボヘミアンスタイルのペールラガー『Pils』がうちの代表作よ。


リサさんは、ずっと「ヒーター・アレン・ブリューイング」で働いているんですか?


  リサさん


私は元々ワイン業界で働いていて、そっちの道に進むつもりだったんだけど、ちょうどカリフォルニアでぶどうの収穫の仕事を終えて無職というタイミングで父が股関節置換手術をするからブルワリーを手伝うように言ってきたの。26歳の頃かな。父のブルワリーに長居するつもりはなかったんだけど、それ以来もう、10年ここで働いているわ!
最近は教師を定年退職した母もテイスティングルームの方を手伝っていて、家族みんなで経営してるの


どうしてワイン業界に戻らず、ビールづくりに従事することにしたのですか?


  リサさん


ビールもお酒づくりという興味のある分野で、同じように楽しい仕事だったから。しかもワインの質はその年のぶどうの出来に大きく左右されるけれど、ビールはもっと材料の選択肢も多くて、自分の判断、働きが味に現れるところが気に入ったの
あとは、現実問題、自分のワイナリーを手に入れたり、フルタイムの仕事に就くのはとても難しいってことも考えたかな。


もともとビールにも興味があったのですか?


  リサさん


もちろん!ポートランドで生まれ育って、20代前半でクラフトビールのムーブメントをどっぷり経験しているから。
父がブルワリーを始めたのは私が24歳の頃だったんだけど、テイスティングにかなり貢献したわ(笑)


大人になってから、ずっとお父さんと一緒に働くのって、どうですか?喧嘩とかしません?


  リサさん


一緒に働き出した当初は意見の行き違いもあって揉めたりもしたけれど、今はもう解決済み。互いに気持ちよく働ける環境になっているかな。クビになる心配をせずに、オーナー兼マスターブルワーに自分の意見を率直に言えるのは、家族だからこそよね(笑)。恵まれてると思うの。



ラガーへのこだわり


リサさんの好きなビールは何ですか?


  リサさん


うーん、やっぱりピルスナーかな。父と基本、被っているかも。私の方は、IPAとかホップの香りの強いビールも好きなんだけど。


ご自身でもレシピを考えたりしますか?


  リサさん


もちろん!うちのシークレットアルトビール『Sticke Alt』が初めてのレシピよ。2013年にレシピを考えてから、ほぼ毎年つくっている10月前半の季節のビール。
でもこれが代表作かって聞かれると、10年間みてきたヒーター・アレンの代表作「Pils」の方がそうだって感じるかな。「Pils」は父のレシピだけど、最近はずっと私がつくっているから。


最近、ポートランドではラガーが流行していますよね。それについてはどう思いますか?


  リサさん


良い面と悪い面があるかな。
良い面は、例えば、「黒いラガービール」の「ダンケル(Dunkel)」とか、これまであまり馴染みのなかったラガー系ビールのスタイルに興味を持つ人が増えていること。

悪い面は、流行だからって不勉強なブルワーが自分たちの作り慣れたIPAと同じような糖化方法でラガー系のビールをつくって、まずいラガーをラガービールとして認識する消費者が増えることかな。


確かにそれはラガーにもビール業界全体にもよくないことですよね。でもつくり方の話でいうと、ラガー系代表とも言える淡麗辛口のピルスナーは、素材が少なくシンプルで、ちょっとの失敗も隠せないから、ホップをたくさん加えることである程度調整の効くIPAよりも醸造が難しいって何人かのブルワーに聞きました。実際はどうですか?


  リサさん


どうかなー。私はラガーばっかりつくってきたから、ピルスナーの方が難しいとは思わないんだけど。“難しさが違う”って言った方が正しいかも。
どこかでIPAとピルスナー、どっちをつくるのが難しいかってブルワーたちの議論があった時に、「いやいや、難しいと言えば『バーバリアン・ヘーフェヴァイツェン』だろう」っていう別のビールの名前が出て、みんなが妙に納得したことがあったけど。


「バーバリアン・ヘーフェヴァイツェン」は、つくるのが難しいんですか?


  リサさん


うん。うちでもつくっているけれど、プロテインの多い小麦を使うし、8段階の温度設定に酵母の量の調整も必要だから、なかなか同じ味にできないのよ。



家族の名前を冠したブルワリーのこだわり


既にご自身のブルワリーがあるようなものかと思いますが、この先の夢などありますか?


  リサさん


細かいことかもしれないけれど、より効率的に、よりクリーンに、安定した品質を保てるようプロセスの改良をしていきたいと思っている。事業を拡大するかは、業界の動向を見て考えたい。
あと数年で父が定年するって言っているんだけど、私の代はもちろん、この先も「ヒーター・アレン」の名前を冠したブルワリーは、クラフトラガーをつくっていくことにこだわりたいかな


他にこだわりはありますか?


  リサさん


水をはじめ、良質な材料を使うこと。
それから、イギリス流じゃなくて、チェコ・ドイツ流のラガーつくりを続けることかな。


ご自身が女子ブルワーであることで何か違いを感じますか?


  リサさん


ポートランドのビール業界は開けてきていると思うけど、まだ女子だってことで扱われ方に違いはある。それは男性に悪気があるというよりも、無意識に起こっていることが多いんだと思う。気になることは、その度に指摘してる。
それにしても私がビール業界に入った10年前はあまり女子ブルワーがいなかったけれど、今はたくさんの女性が活躍していて本当に嬉しい。成長を見守るママの気分(笑)。


良いブルワーの条件は何だと思いますか?


  リサさん



オープンマインドであることと、ディティールに気がまわること


最後に日本のビール女子へのメッセージをお願いします。


  リサさん


クラフトビールっていうと、このタイプのビールを飲まなきゃって思い込みがあるかもしれないけれど、たとえからかわれても気にしないで好きなビールを飲めばいいと思う。私も20代の頃、好きじゃないビールでも取り敢えず飲み終えてた。そんなことしなくていいのにね。好きな味が見つかれば、それがベストだから。


ありがとうございました!


Rate Beerサイトで現在「ピルスナー」カテゴリー1位という高評価の「Pils」をはじめ、お父さんのレシピやブルワリーをしっかりと守っているリサさん。

「3歳の甥っ子が次の後継者候補かも」と笑っていましたが、これから何代も美味しいクラフトラガービールが受け継がれていくといいなと思いました。







情報提供元: ビール女子
記事名:「 【インタビュー】家族の名前を冠したブルワリーのこだわり。父娘で経営する女子ブルワー