何故かもう梅雨も終わった。

夏が来た! 音楽フェスだ! みたいな気分の高揚のスタートを切る映画として、この映画なんかはどうだろう。

『ムーラン・ルージュ』で知られるバズ・ラーマン監督による伝説の歌手、エルヴィス・プレスリーの実話の映画化が待望の公開を迎えた。

監督特有の豪華な演出でプレスリーの誕生と隆盛、そしてその舞台裏の実話に迫る。

主演に大抜擢されたオースティン・バトラーの「プレスリーぶり」の魅力がシンプルにたまらない。

黒人居住地域で暮らしていたプレスリーは、リズム&ブルースやゴスペルといった当時の黒人の音楽にカントリーミュージックを融合させて、新鮮なパフォーマンスで観客たちの心を射抜く。

後にロックンロールと名付けられる音楽の誕生である。

失神しそうなほどに女性客は興奮し、即座に時代はプレスリーを求め、彼は瞬く間に富と名声を手にしていく。

彼の悪しきマネージャー、トム・パーカー大佐を特殊メイクで演じるのは、ハリウッドが誇る名優トム・ハンクス

パーカーの語りを混ぜながら彼の視点から展開していく物語は、サリエリがモーツァルトとの関係を独白する名作『アマデウス』を連想させるが、あっちは音楽業界でのライバルであるのに対し、こっちはミュージシャンとマネージャーという関係だ。

嫉妬とは異なりプレスリーを巧みに利用しようとするパーカーの独善や、紛れもない才覚に関する描写は、下手をするとただの成功物語になってしまいそうな題材に効果的なスパイスを与えている。

要とも言える歌唱シーンは贅沢の一言。

俳優だけじゃなく歌手でもあるバトラーの熱唱は素晴らしく、型破りなプレスリーの歌い方を見事に体現する。

それでいて、原曲とバトラーの歌声を融合させるような音声処理も一部なされている。

向かうところ敵なし、と思えるほどに見た目も美しく圧倒的な歌唱力とインパクトを与え続けたプレスリー。

だが中年に差し掛かる後半には、どことなく新庄剛志や竹内力に見えてくるところも目が離せない。

というか、そんな個人的な感想からは目を離してもいいのだが、それでも彼が「エルヴィス・プレスリー」であり続けたその姿には、裏舞台のエピソードも知ると、また違った感動の涙を誘う。

実際、世間一般の認識程度にはエルヴィス・プレスリーを知っていたと自負している自分でも、この映画を観て彼の人間的な部分への認識が改まり、彼がもっと好きになってしまった。

当時の時代の最先端を走り、中傷や時代の流れにも左右されずに、自身の生き様を貫いたプレスリー。

熱狂の連続の中に彼が抱えていた悲哀を垣間見ながら、伝説が永遠になったことを目と耳と、そして心に焼き付けることができる作品だ。

 

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