『赫い髪の⼥』(79)、『キャバレー⽇記』(82)など⽇活ロマンポルノの名作や、『遠雷』(81)、『W の悲劇』(84)、『ヴァイブレータ』(03)、『共喰い』(13)など数多くの脚本を⼿がけてきた荒井晴彦が、主演に綾野剛、共演に柄本佑、さとうほなみを迎えた映画『花腐し』が公開中です。

【あらすじ】斜陽の⼀途にあるピンク映画業界。栩⾕(くたに)は監督だが、もう5年も映画を撮れていない。梅⾬のある⽇、栩⾕は⼤家から、とあるアパートの住⼈への⽴ち退き交渉を頼まれる。その男・伊関は、かつてシナリオを書いていた。映画を夢⾒たふたりの男の⼈⽣は、ある⼥優との奇縁によって交錯していく。

本作で伊関を演じた柄本佑さんにお話をお聞きしました。

――本作拝見させていただき、とても素晴らしかったです。柄本さんは脚本を読んだ時にどの様な感想を抱きましたか?

原作だと男2人がずっと話している場面が続いていたり、伊関の職業やキャラクターが違うみたいなのですが、僕は荒井さんの本だけしか読んでいません。読んだ時、単純に「面白いな」と思いました。荒井さんが若い時に身を置いていたピンク映画の世界が描かれていて、ピンク映画も今はフィルムでは無くてデジタルで撮られている、人によっては「ピンク映画はもう終わったんだ」と言う人もいるかもしれない、でも進んでいかないといけないという部分と、この女1人と男2人の関係、「それでも生きていくんだ」という人間の感情がリンクしていく感覚がありました。いち時代が終わっても、歩いていかなくてはいけない、そんな所が一番面白いなと感じました。

――柄本さんは荒井監督の作品で、大きな話題となった『火口のふたり』(2019)にて主演されていますが、その時との監督の演出の違いはありましたか?

『火口のふたり』に続いて荒井監督とご一緒させていただけるということもそうですし、川上(皓市)さんと新家子(美穂)さんの2カメラという布陣も『火口のふたり』と同じでした。セリフさえしっかりといければ基本的には1テイクでいけるようにセッティングしてくださっている中で、監督がポツリ、ポツリと言葉数少なく指示をする。やっていることは(『火口のふたり』と)変わらないのですが、本作の方が監督のディティールへのこだわりを感じました。『火口のふたり』を経て、「このシーンは、こういう風にしたい」というオーダーが多くなった様に感じました。

――『火口のふたり』も本作も柄本さんが対峙する役者さんは1人、2人という感じですよね。撮影の雰囲気はいかがでしたか?

非常におだやかな現場だったと思います。『火口のふたり』が、ソリッドにストイックにセリフというものに執着していた現場だとすると、本作の方が芝居にベクトルが行っているなと。もちろんセリフというものにも迫っているのだけれど、やることが多いんですよ。酒を飲んだり、タバコを吸ったり。『火口のふたり』はセックスするならセックスする、食べるなら食べる、と動作がシンプルだったので。あと今回は過去に行ったり、現代に戻ったりと考えることも多かった。

――おっしゃるとおり、静かなシーンが続く映画ではありますが、ふとした動作に感情がこもっている感じもしました。

伊関が栩⾕を部屋に呼び込んで酒を飲み始めて、「いい女だったんだよ」と祥子のことを語る。その時間経過によってちゃんと酔っ払っている必要もありました。「この回想を経て、缶ビール何本飲んだことにする?」みたいなことを、監督や助監督含めて話しながら決めていました。飲んでいるうちに座っている位置も変わってくるだろう、とか。「ここまで話したら、缶つぶして新しいビールを持ってくる」とか、考えながらの動作が多かったですね。

――綾野剛さんとの共演はいかがでしたか?

同じ作品に出たことや、すれ違ったことは何度かあるのですが、こんなに一緒のシーンをご一緒したのは初めてでした。荒井さんの本と綾野さんの親和性の高さをすごく感じました。すごくフィットしているなって。でも、先ほど綾野さんとお話していたら、「“この栩⾕という男は荒井さんなんだな“と、つかんでから演じられる様になった」とおっしゃっていました。これは僕も『火口のふたり』の時に全く同じことを思って、同じことをしていました。

――作品もキャラクターも異なりますが、同じアプローチをしていたのですね。

そうなんですよ。栩⾕にとっての伊関は同じ女を愛した男なのだけれども、どこか「冥界への案内人」という側面がある様に思っていて。取り立てにきた栩⾕を部屋にいれるし、その後も執拗に居酒屋までついてくる。

――ただのアパートの一室なのに、「そこに足を踏み入れたら何かが終わってしまうんじゃないか」という緊張感がありますよね。

そうそうそう。そういう不気味な雰囲気でもって栩⾕をいざなうということを意識していたと思います。

――さとうほなみさんとの撮影はいかがでしたか?

とってもカッコ良かったですね。堂々としているし、物怖じしないし。綾野さんもおっしゃっていたけれど「載せているエンジンが馬鹿でかい」というか。あとから、バンドでドラムをやっているということを聞いてすごく納得しました。
一緒に暮らしていた部屋から出る時に、がらんどうになった部屋の中で最後のセックスをするというシーンの前日に、荒井さんに「この別れのセックスシーンなんですけれど、2人はキスするんですか?」って聞いたんですよ。そうしたら、荒井さんが「難しいこと聞くなあ」って腕組んで考え込んじゃって。そうしたら、ほなみさんがちょうどそこにやってきて、その話の流れを伝えたら「いや、私だったらめちゃするわ」って言って。そこから色々な話をした後に「よし、ほなみに乗ろう!」となって、あのシーンになったんです。その時に、ああ、良いことを言うなあって思ったんですよね。我々だけでは辿り着けない答えに連れていってくれるというか。完成した作品を観た時に、そのシーンの重要性も感じましたし、ほなみさんはサッパリした感じで言っていましたけど、ここまで見えていたのかもなって。

――すごいですね…!

そういうことってあるんですよ。共演の方が言ってくれたことに感動する。『火口のふたり』の時も、瀧内さんが泣いてしまうシーンで、監督は「なるべく泣いてほしくない」と言っていたのですが、どうしても涙が出てしまうと。出来上がった作品を観て、多くのお客さんがそのシーンに感動しているので、荒井さんと2人で「瀧内が合ってたんだな。俺たち男では分からないんだ」なんて話をしていました。脚本とは違う部分で動いていくというのが、芝居の面白さだなと思います。

――「人間の感情」って本当に面白いですね。

演じている人の感情によっても映画って作られているんだなと思いますね。紙に書かれているセリフを人間が言ってみて、その差分が出てくるというか。だから僕は「てにをは」みたいな部分にも割と固執して覚えて、生身でやった時には勘に任せるという感じでやっています。この映画も観てくださった方がどういう感想と感情を抱いてくれるのか楽しみです。監督は泣かせにかかっているらしいので(笑)。

――思い出し泣き、というか、観終わった後に余韻でじわじわ泣かされてしまう方が多い様な気もしています。私もたくさんの感想を見ることが楽しみです。今日は素敵なお話をどうもありがとうございました!

撮影:たむらとも

『花腐し』
出演:綾野 剛 柄本 佑 さとうほなみ 
吉岡睦雄、川瀬陽太、MINAMO、Nia、マキタスポーツ、山崎ハコ、赤座美代子/奥田瑛二
監督:荒井晴彦 
原作:松浦寿輝『花腐し』(講談社文庫) 
脚本:荒井晴彦 中野太

製作:東映ビデオ、バップ、アークエンタテインメント 
制作プロダクション:アークエンタテインメント 配給:東映ビデオ 
2023年/日本/137分/5.1ch/ビスタ/モノクロ・カラー/デジタル R18+ 
(C)2023「花腐し」製作委員会 
公式HP:hanakutashi.com Twitter:@Hanakutashi1110

情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 映画『花腐し』柄本佑インタビュー「脚本とは違う部分で動いていくというのが、芝居の面白さ」