『素敵な選TAXI』『架空OL日記』などを手がけてきたバカリズムさんが脚本を手がけ、井浦新さんと共に主演を務めたWOWOWのオリジナルドラマ「殺意の道程」。全7話を再編集した『劇場版 殺意の道程』が現在公開中&配信中です。


父親の復讐のため殺人を計画する息子・一馬(井浦新)と、一馬に協力するいとこの満(バカリズム)。殺害方法やそのために必要な道具はなにか、そもそも完全犯罪はどのようにすればいいのか? 復讐劇というシリアスな物語の中で省略されがちな部分を事細かに描いていく新感覚のサスペンスコメディです。


今回バカリズムさんにインタビューを敢行。作品へのこだわりや共演者の方への印象など、色々とお話を伺いました。



――本作大変楽しく拝見させていただきました。「殺人事件が起こるまでの裏側」という内容で、殺人に至るまでの日常会話がすごく面白かったです。バカリズムさんがサスペンスドラマに感じた疑問などから生まれた視点なのでしょうか?


バカリズム:それがですね、サスペンスドラマは観ないんです。なんとなくテレビで流れていたりする時に見かけると、「色々な部分を端折っているよね」というのが僕の印象だったんです。ドラマでは自供してパトカーに連れていかれるシーンで終わりますが、その後の車中って雑談とかもするんじゃないかなって。渋滞していて、そんな話もしたり。もちろん普通のドラマでそういう所を描いていたらキリが無いからだと思うのですが、そういうシーンこそ描きたいと思ったのがこの作品なので。


――“殺意の道程”の途中であったとしても、日常は続いているんだよな、というシーンの連続ですごく面白かったです。


バカリズム:このお話はほとんどが無駄というか、言ってしまえばほとんどいらないシーンではあるんですね(笑)。でも僕はその中でも笑いを優先するので、監督が思う「映画として必要な部分」と擦り合わせていった感じになります。本当の無駄と必要な無駄を分けていくというか。元々笑いの感覚が近い監督さんなので楽しく出来ました。


――ドラマではそんな会話のシーンをたっぷり楽しむ事が出来て、映画では編集されていますが、どこをカットするのか悩んだのでは無いでしょうか。


バカリズム:僕よりも監督が大変だったと思います。監督がざっくりと2時間くらいに収めた映像を観て「あのシーンも入れてもらっていいですか?」とか交渉していった感じで。例えば、キャバクラに行く車中で「一ちゃん(一馬)が着ている服をどこで買ったのか」という会話があるのですが、あそことか絶対物語にはいらないんですよね。でも「あそこは必要ですよ」ってワガママ言わせてもらって。映画と笑いを天秤にかけた時に、僕はどうしても笑いを優先してしまうので。


――井浦新さんがコメディなお芝居をしているわけじゃないのに、笑えるというのも面白かったです。井浦さんの印象はいかがでしたか?


バカリズム:もちろん元々お芝居は観させてもらっていて、あのシリアスな雰囲気と表情が“フリ”にすごくきいてくるなと思ったんです。書いている時から井浦さんのイメージでアテ書きをしていたので、撮影は目の前でそのイメージが脳内再生されていく感じでした。井浦さんが真面目な事を言えば言うほど面白さが増すというか、説得力があるというか、井浦さんがコンビニのパンの話をしているだけで面白いという。


――アテ書きだったのですね、一馬の天然な感じがすごく自然でした。


バカリズム:とにかく真面目な方で。僕より一つ年上なのですが、ものすごく紳士的で作品に関してもしっかり読み込んでくださって。空き時間に「このドラマはサスペンスコメディというくくりになっていますけど、僕はヒューマンドラマでもあると思うんですよね」とおっしゃってきて、「何言ってるんだろうこの人」って思ったんですよね(笑)。「2人の男の青春ロードムービーでもあるんですよ」と。「ああ、そうっすか」と思いながらも、僕の考えが及ばなかった部分まで感じてくださっていて、その感じがすごく一ちゃんに近いというか。そこまでの熱量を持って作品に取り組んでくれる方ってそうはいないと思うので、その真面目さは才能なのだなと感動しました。それがこの作品では良い空回り感を出してくださるというか。


――対する、鶴見辰吾さんも存在感たっぷりで。


バカリズム:脚本が出来上がってから演じていただくことになったのですが、撮影の初日に現場で鶴見さんを見たらめちゃくちゃカッコ良くて。悪役としてのオーラがすごかったですし、最後の悪あがきのシーンも鶴見さんがすごく粘った芝居をしてくださいました。本当一文とト書きだけのシーンなのにご自身で演じてくれて、「全然、諦めないなこの人」っていうのがすごく面白くて。映画では時間の都合で短くなっていますが、もっともっと粘っているver.もあるので、いつか世に出したいなと思うくらい僕は気に入っています。


――堀田さんと佐久間さんの役所も素晴らしかったです。


バカリズム:あの2人が誰よりも長ゼリフが多いんですよね。役者さんからしたら当然なのかもしれないのですが、リハからも暗記してスラスラ言ってくださって。僕と井浦さんは短いセリフがポツポツあるだけだったりするシーンで、僕と井浦さんの方がミスしたり(笑)。



――本作はサスペンスドラマでありながら、バカリズムさんのコントや作品のファンの方が楽しめる内容となっていますが、コントとドラマの脚本を書く時の違いってあるのでしょうか?


バカリズム:ほぼ同じなんですよね。脚本を書く勉強をしていなくて、コントの書き方は分かるので、普段3分とか5分で書くコントを、30分とか1時間、2時間いただいて書くという感じです。「サスペンスドラマで、張り込みをしている2人が30分くらい延々とくだらない話をしている」ドラマとか作ってみたいなと思っていたら、住田さんが面白がってくれて、WOWOWさんからもお話をいただけで叶った企画なので。車中の会話シーンを撮りたかったのが最初なんです。


――住田監督とはたくさんの作品でご一緒されていますね。


バカリズム:2人とも元々バラエティの人間ですしね。趣味も合いますし、説明をいくつか飛ばしても分かってもらえるので、そういう方と出会って一緒に仕事が出来るのは幸せだなと思います。10年くらい前の『バカリズムマンVS.怪人BOSE』という、特撮ドラマでご一緒して。5分間くらいのクレイジーな番組だったのですが、その時に「すごく面白い方だな」と思って、ずっと色々な作品でご一緒しています。


『住住』と『架空OL日記』はこれまでご一緒した作品と撮り方が近かったのですが、本作はすごく映画らしい撮り方をしているので、住田監督のアドレナリンがものすごく出ていて。すごく興奮して楽しそうに撮っていたのが印象的でした。監督のこだわりのカッコいいシーンがたくさん入っているので、ぜひ注目していただきたいです。


――最後に、作品とはちょっと離れた質問なのですが、バカリズムさんが執筆作業をする際に椅子などにこだわっているとテレビ番組で拝見しました。最近購入して良かったものはありますか?


バカリズム:ヒーター付きのブランケットを買って愛用しています。仕事する時のデスクがこたつみたいな感じになって暖かくて良いんですよ。僕のOLの部分が気に入っています(笑)。


――それは私も真似させていただきたいです! 今日は楽しいお話をありがとうございました!



ヘアメイク:鈴木海希子

スタイリスト:高橋めぐみ


「劇場版 殺意の道程」

出演:バカリズム 井浦新 堀田真由 佐久間由衣 鶴見辰吾 

脚本:バカリズム

監督:住田崇

音楽:大間々昂

製作:「劇場版 殺意の道程」製作委員会

配給:WOWOW

上映時間:119分

コピーライト:(C)2021「劇場版 殺意の道程」製作委員会

特設サイト:satsui-movie.jp


【ストーリー】ある日、小さな金属加工会社の社長・窪田貴樹が自ら命を絶った。彼を自殺に追い込んだのは貴樹の会社が下請けをしていた取引先の社長・室岡義之。室岡の口車に乗せられた結果、貴樹は多額の負債を抱え、会社は倒産。全てを失い絶望した貴樹はビルの屋上から投身した。遺族たちの訴えも虚しく、一切罪を問われることなく、まるで他人事のようにその後ものうのうと裕福な生活を続ける室岡。 貴樹の息子・窪田一馬(井浦新)は司法では裁かれない室岡への復讐を心に誓う。そして、貴樹が息子のように可愛がっていた一馬の従弟・吾妻満(バカリズム)と室岡殺人の完全犯罪を企てる。しかし、人を殺すにも準備は必要。これまで一度も犯罪に手を染めたことのない二人は、信頼する人たちの協力を得て悪戦苦闘しながら殺害方法を探っていく。「殺害計画の打合せ」から「必要な物資の買い出し」、「殺害実行のシミュレーション」など。果たして、一馬と満は復讐を成し遂げることができるのか—。


情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 バカリズム脚本&主演『劇場版 殺意の道程』インタビュー「サスペンスドラマの無駄なシーンこそ描きたいと思った」