今回はみくささんのブログ『人生万事こじらせるべからず』からご寄稿いただきました。


母乳カルーアをつくろう! ~母乳で感染する病気編~(人生万事こじらせるべからず)


以前に東京大学性欲研究会に寄稿したものを加筆修正した記事です。



はじめに

早稲田生でもわかる成人T細胞型白血病

HTLV-1の特徴的な感染経路

安心安全の母乳カルーアレシピ

参考文献


はじめに


 母乳カルーアを飲みたい、ヒトとして生まれ落ちたからには一度はそう考えたことがあるはず。え、無い?そんなまさか。胸に手を当てて考えてみてほしい。カルーアの苦みと母乳の優しい甘み、アルコールの刺激とバブみが絶妙に混ざり合った極上の風味……一度飲んだら病みつきになってしまう、それが母乳カルーアである。


 だが、筆者をもってしても、いまだ母乳カルーアを飲んだ経験がない。この理由は明白で、母乳を手に入れるのが非常に困難なのである。自分が出産して経産婦になるか、経産婦の知り合いを頼るか、どちらにしても難易度が高い。結婚して子供が持てる状況になれば、母乳を飲める機会はあるのだろうが、悲しいかな、結婚というのも必ずしもできるものでもない。


 そうだ、母乳風俗に行こう。そう考えるのが、いたってロジカルな帰結である。そして、風俗に行くとなれば、ちょっと気になるのが性病である。とはいえ、母乳飲むだけなら性病には……罹るのである。えっ。マジか。筆者が調べたところ、これが結構重篤な病気に罹るリスクがあるので、母乳を飲む際にはこの記事を参考にして十分注意してほしい。


 経母乳感染する主な病気には以下のものが挙げられる。エイズ、単純ヘルペス、先天性CMV感染症、B型肝炎、風疹、成人T細胞型白血病……これらの病気は大体セックスでもうつる。しかし、真面目に生きている童貞には縁の無い話なので割愛する

この中でも、成人T細胞型白血病は、主な感染経路が母乳感染というかなり独特な病気であるので、次章で詳しく説明する。


早稲田生でもわかる成人T細胞型白血病


 成人T細胞型白血病はウイルスによって引き起こされる病気で、原因になるウイルスの名前がHTLV-1である。エイズ(AIDS)は病名だが、原因のウイルスの名前はHIV、みたいなものだと思ってほしい。


 成人T細胞型白血病はその名の通り、白血球の中のT細胞にウイルスが感染し、がん化する白血病である。白血病と言えば、テレビドラマの主人公の恋人が死ぬ原因ランキング第一位の病気だ。成人T細胞型白血病もこの例にもれず、治療が極めて困難な難病で、発症した後、約1年で大体死ぬ。がんの完治の目安に使われる5年生存率は10%であり、9割の患者は治ることなく5年以内に死ぬ。これはエイズを上回る死亡率だ。


 エイズと同様、ウイルスの感染者だけれども、発症に至っていない状態があり、これをキャリアと呼ぶ。エイズではHIVキャリアの段階で薬を投与し、発症を抑えるようにしていくのだが、HTLV-1キャリアにはこのような薬や治療法が見つかっていない。感染がわかったところで何の予防もできないのだ。


 発症後は一般の白血病と同様、抗がん剤治療などがなされるが、骨髄移植以外の治療では完治はかなり難しい。

 と、ここまで書くとエイズより恐ろしい病気のように思われるのだが(実際発症したらエイズより早く死ぬのだが)、生涯発症率が5%ほどであるため、感染者の95%は白血病を発症せずにその生涯を送ることができる。また、感染から発症までの期間が40年以上あり、赤ちゃんの頃に感染した母子感染者であっても40歳を越えるまではほとんど発症せず、発症のピークは65歳ごろ。感動モノのテレビドラマのネタにするには、患者の年齢が高すぎるのがネックだ。


 成人してから感染した場合は発症する前に寿命が来るため、成人後にHTLV-1に感染したキャリアのうち、成人T細胞型白血病を発症した例は殆ど報告されていない。したがって、読者諸君が母乳カルーアを飲んで成人T細胞型白血病を発症する可能性は0に近い。しかし、セックスをすれば周囲にうつすリスクはあるし、自分の子供が発症して自分より早く亡くなるのも悲しいと思うので、セックスの予定がある方々は留意してほしい。


 また、HTLV-1によって発症する病気にはHTLV-1関連脊髄症とHTLV-1ぶどう膜炎がある。これらは成人後の感染でも発症のリスクがある。


〇HTLV-1関連脊髄症

下肢の麻痺や排尿障害を症状とする病気。こちらも難病で、症状を回復させることは難しく、時間経過とともに徐々に悪化していく。発症のピークは30~50歳代で、こちらは成人してから感染した人でも発症する場合がある。死亡の直接の原因にはならない。


〇HTLV-1関連ぶどう膜炎

ぶどう膜炎自体はさまざまな病原体で起こるが、そのうちHTLV-1を原因とするもの。飛蚊症やかすみ目、視力の低下が起こる。ステロイド剤の使用で治癒する。再発はするものの、適切な治療を行うことで視力を維持することが可能である。


HTLV-1の特徴的な感染経路


 HTLV-1はセックスでもうつるが、男性から女性に感染することはあっても、その逆はほとんどない。また、クラミジアなどの他の性感染症に比べると感染力はさほど強くない。10年間付き合った夫婦では、男性から女性への感染率が60%であるのに対して、女性から男性への感染は0.4%というデータがある。この性質があるため、男性の新たな感染者の主たる感染ルートは、母乳になるのである。


 また、HTLV-1の感染率には地域差がある。全国の中でも、九州地方の感染者が突出して多く、鹿児島県民の感染率は東京の10倍以上になる。人口の流動化が進み、都市圏での感染者の率も上がってきたが、もともとは沖縄、鹿児島、長崎、高知が世界的に見ても最も感染者の多い地域で、風土病として扱われた時代もあった。HTLV-1の正しい知識を持つことは重要だが、下手に広めると、九州出身の男性とエッチするのはよくないだとか、あるいは、九州の母乳風俗はヤバい、という差別的言説を生みかねない側面があるのだ。


 朗報、と言うべきか、九州地方の産婦人科では早くからHTLV-1への対策がきちんとされており、妊婦検診でほぼすべての妊婦が検査を受けている。2010年から厚生労働省の指示によって、HTLV-1検査は公費負担の妊婦健康診査の項目に加わった。

 妊婦検診で陽性であっても、母乳育児をやめ、粉ミルクに切り替えることで子供への感染を大幅に減らすことが出来る。母乳を断つことが、HTLV-1根絶に向けた唯一の、そして強力な予防法なのであるが、母乳神話の根強さによって、どうしても母乳を与えたい母親が多いのが、根絶のネックになっていることは否めない。病気の心配をしてまで母乳を飲みたいという気持ちがある我々が非難できることでもないが。


安心安全の母乳カルーアレシピ


 というわけで、長々と病気のリスクばかりを説明してしまったが、この知見を活かしていよいよ母乳カルーアを作ろう。


材料

・カルーア:30ml

・妊婦検診をした後新たな相手との性行為をしていない経産婦の母乳:90ml

・ココアパウダー:適量


作り方

1.母乳の病原体の有無が心配な場合、母乳をフリーザーパックにいれ、24時間以上冷凍庫で保存する。

2.グラスにカルーアを先に入れ、二層に分かれるよう静かに母乳を注ぐ。

3.お好みでココアパウダーを振りかける。


以上、良き母乳カルーアライフを。


参考文献


HTLV-1情報サービス

http://htlv1joho.org/index.html


福岡大学病院 HTLV-1とその関連疾患について

http://www.hop.fukuoka-u.ac.jp/upfiles/HTLV-1_info8.pdf


HTLV-1対策推進協議会 HTLV-1キャリア相談体制の現状と課題

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000059740.pdf


HTLV-1キャリア指導の手引き

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/htlv-1_d.pdf


厚生労働省 妊婦健康診査におけるHTLV-1抗体検査の実施に関する通知の改正について

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000thw2.html


 

執筆: この記事はみくささんのブログ『人生万事こじらせるべからず』からご寄稿いただきました。


寄稿いただいた記事は2019年3月12日時点のものです。


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情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 母乳カルーアをつくろう! ~母乳で感染する病気編~(人生万事こじらせるべからず)