2023年7月、Googleの持株会社であるAlphabet社と、SNSプラットフォーム「Facebook」「Instagram」を有するMeta社という米国のビックテック2社が、2023年第2四半期(4~6月)の決算を発表し、両社ともに「最終増益」という、IT業界にとって明るいニュースが流れました。

AlphabetはIT業界を牽引する存在ではあるものの、ここ最近の収益は低迷していました。Metaの方はメタバースなどへの投資が裏目に出ており、近年は苦戦を強いられています。そんな両社が揃って増益に転じた主な理由は、インターネット広告事業の復調にあります。

そこでこの記事では、この増益の要因をさらに詳しく分析すると同時に、両社の未来戦略を考察します。

ビックテック2社の未来を占うことは、IT業界の未来、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)の行く末を占うことにも繋がるでしょう。

DX先進国と比べ、DX推進が極端に遅れていると言われる日本企業が世界で戦う力を手に入れるヒントとするためにも、ぜひ最後までご一読ください。

インターネット広告復調が見えるAlphabetとMeta

2023年第2四半期に増益を達成したAlphabetとMeta。この増益は、Alphabetは6四半期ぶり、Meraは7四半期ぶりという久しぶりの最終増益でした。

2022年頃から、両社の収益がしばらくの間低迷していた原因は、コロナ禍などによる景気減速の影響で、両社の主力と事業であるインターネット広告事業が振るわなかったことにあります。

まずこの章では、ネット広告復調の兆しと、不調時に両社が共通して取った施策について確認しておきましょう。

ネット広告復調の兆し

Alphabet78%、Meta98%。

これは、両社の売上高のうち、ネット広告の売上高が占める割合(2022年末時点)です。

コロナ禍に突入して世界経済が不調になった時期を境に、ネット広告の出稿が減り、両社とも大幅な減収の時期が続いていました。

しかし、コロナ禍による不況が少しずつ収まり、ネット広告の市場傾向が復調に向かったことで、両社ともに株価が大幅に上昇するなど、経営的なプラス要素が積み重なってきたのです。

大規模レイオフとAI投資

2022年から2023年にかけて、Microsoft、Amazon、X(旧Twitter)などの大手企業が、一時的に従業員を減らす(レイオフ)計画を発表しました。

その中でも特に話題になったのは、Alphabetが12,000人、Metaが10,000人もの大規模レイオフを実行する計画を発表したことです。

一般的に、レイオフは企業の業績が厳しいときに利益を確保するためとして行われる施策です。そのため、「守りのレイオフ」というイメージが浸透しています。

しかし、AlphabetとMetaは売上自体は下がっていたものの、利益はしっかりと出ている状況の中で大規模なレイオフの実行を決断しました。

つまり、両社のレイオフは「守りのレイオフ」ではなく、新しい時代に合わせて、会社をより効率的に成長させるための攻めの一手であったと言えるのです。

その「新しい時代」とは、OpenAI社が開発した自然言語処理モデルである「ChatGPT」のような、AIを活用した製品やサービスが急速に進化している時代を指しています。

MicrosoftがOpenAIに先行する形で多額の資金を投じていることもあり、AlphabetとMetaも、このAIの波に乗り遅れないよう、多くのリソースを投じています。

このAIへの投資は、両社が将来の成長戦略においてAIが果たす役割を非常に重要視していることを表しています。

例えば、AIを活用することで、広告をより個々のユーザーにマッチしたものにできるようになります。ユーザーとの関わりをさらに深める広告が出稿できるようになれば、、ネット広告の需要はさらに高まり、収入の大幅な増加が期待できるのです。

AlphabetとMetaが行った大規模なレイオフは、AIを中心とした新たな事業や研究を積極的に進めることで、両社がこれからも成長し、競争力を保つための大事な戦略の1つだったのです。

今期の増益自体は、AI戦略の効果というよりも、経済全体の復調という要素が大きいでしょう。

しかし、このタイミングで仕掛けた戦略がうまく結実すれば、両社は広告の世界での地位をさらに強固なものにできるでしょう。

これまでよりもさらに効果的な広告の実現は、企業の価値向上に大きく寄与し、持続的な成長を可能にすると考えられます。

Alphabetの未来戦略

このように、AIへの投資は両社が共通して取り組んでいる最重要課題の1つです。

ここからはさらに深堀して、それぞれの企業の未来戦略を分析していきます。

Alphabetは、インターネット広告市場での競争力を高めるために、多角的な戦略を展開しています。特に、検索連動型広告とYouTube広告、そしてSEOからSGEへのシフトが注目されています。

検索連動型広告とYouTube広告

2023年4〜6月期において、Alphabetのネット広告収入は581億4300万ドルに達し、前年同期から3%増加しました。

中でも好調な検索連動広告の売上高は426億2800万ドルで、前年同期から5%増加しています。

また、YouTubeの売上高は76億6500万ドルで、22年4〜6月期以来の増収となっています。世界的に動画コンテンツの利用は増加しており、YouTube広告に対して広告主からの需要が高まっていることも増収理由の1つです。

lphabetは未来の戦略の一環として、検索連動型広告におけるより高度なAI技術を用いた広告ターゲティングを開発中です。

これにより、広告主はより効果的な広告キャンペーンを展開できるようになると期待されています。

また、YouTubeにおいては、ショッピング機能の統合やインタラクティブな広告フォーマットの導入を進めています。

これらの新しい機能は、広告主にとってROI(投資対効果)を高める手段となるため、YouTubeプラットフォーム自体の収益性も向上させるでしょう。

さらに、You Tubeにおいて、高速・大容量の通信を実現する5Gの普及によるストリーミング体験の向上や、VR・AR技術の統合によって、今後も広告市場での競争力を強化していく計画です。

SEOからSGEへ

Alphabetは、従来のSEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)からSGE(Search Google Ecosystem:生成AIによる検索体験)へと戦略をシフトしています。

この戦略転換は、Googleが提供する検索の質をさらに高め、個々のユーザーに合わせたより良い検索結果を提示するためのものです。

SGEでは生成AI技術を用いて、ユーザーが求める情報をより精緻に、かつ瞬時に提供することが可能となります。

この新しいアプローチにより、検索エンジン市場での優位性をさらに強化するとともに、広告主に対してもより効果的な広告配信が実現できると期待されています。

生成AIの進化によって、広告のマッチング精度が向上し、広告主とユーザー双方にとって価値の高い情報を提供できる状況を実現する。この目標のために、AlphabetはSGEを核とした新しい検索エコシステムを構築し、長期的な成長と市場でのリーダーシップを確立していく計画を立てています。

Metaの未来戦略

Metaは、次世代のインターネット環境であるWeb3と、SNSプラットフォームで優位性確立を目指しています。

特に、最近発表した大規模言語モデル「Llama 2」は、その戦略の一環として注目されています。

Web3戦略の見直し

Metaは、次世代のインターネット環境であるWeb3に対して積極的に取り組んでいます。その実現のために、戦略立案と見直しを繰り返しながら歩みを進めていると言えるでしょう。

メタバースに関連するReality Labs事業の2023年4〜6月期の売上高は2億7600万ドル、前年同期比から39%減少し、営業損失は37億3900万ドル、赤字額は拡大しました(前年同期は28億600万ドルの赤字)。

Metaは社名を「Facebook, Inc.」から、メタバースに由来する「Meta Platforms, Inc.」に変更するなど、社運を賭けてメタバース事業に取り組んでいます

これは長期的なビジョンをもったチャレンジではあるものの、現時点ではその取り組みが成功しているとは言えない状況です。

しかし、このような状況の中、注目を集めているのが大規模言語モデル「Llama 2」です。

「Llama 2」は、テキスト解析から自然言語生成まで、多様な言語処理タスクを高精度でこなすことができるAI技術です。

例えば、ユーザーがメタバース内で行いたいアクションを自然言語で指示すると、「Llama 2」がそれを理解し、適切なレスポンスやアクションを生成することが可能になるのです。

「Llama 2」は、MetaがAIの進化を取り込んだ新しいサービスや機能の開発を加速させるカギだと言えます。生成系AIとメタバースの融合によって、他社にはない独自の強みを築くことを目指しているのです。

Metaは赤字続きであっても、メタバース事業を決して諦めたわけではありません。むしろ、より魅力的なメタバース事業をユーザーへ提供するために、積極的な開発を進めているのです。

SNSプラットフォームのリーダーシップを狙う

MetaはFacebookやInstagramを強化し、ソーシャルメディア市場でのリーダーシップを確立することを目指しています。

世界のソーシャルメディア利用者数は年々増加しており、SNS事業の取り組みも急速に進行中です。

そんな中、2023年に話題となったのが、MetaがリリースしたSNS「Threads(スレッズ)」です。リリース初日に登録者数が3,000万人を突破するなど、大きな注目を集めました。

ThreadsはInstagramチームによって開発されたテキスト共有アプリであり、リアルタイムの近況や興味のあることについて受発信し、ユーザー同士で共有できる仕組みです。

ThreadsはX(旧Twitter)とユーザーインターフェースや機能が非常に似ています。

現在、MetaはSNSを中心に、「Meta Advantage」と名付けられたAIと機械学習を用いたMeta広告の自動化ツールの提供を開始しています。

特に注目されているのが、「Advantage+ ショッピングキャンペーン」です。これは、AIを活用して広告キャンペーンを自動化し、広告の効率を高めるAI型広告ツールです。

広告主はこのツールを使うことで、広告出稿にかける時間の削減と正確なターゲティングを実現し、より自由で効果的な広告を作成できるようになるでしょう。

MetaはAIの基盤に大規模な投資を行い、広告主が最大限の効果を得られる環境を整えています。

現在のMetaは、SNSプラットフォームでの優位性を確立するために、多角的な戦略と先進的なテクノロジーを駆使して業界の覇者を狙っているのです。

まとめ~インターネット広告の復調が未来を拓く

AlphabetとMetaの未来戦略と、その背後にあるインターネット広告事業の復調について詳しく見てきました。

両社が増益を達成した背景には、未来を見据えた積極的なレイオフによる企業体制の効率化と、広告市場での競争力を高めるための多角的な戦略・先進的なテクノロジーの活用があります。

特に、AlphabetとMetaが注力しているのが、AIとデータ解析を駆使した新しいテクノロジーの開発と普及です。

Alphabetは「SGE」、Metaの場合は「Llama 2」という大規模言語モデルを開発・活用することで、今後のインターネット環境と広告市場において、さらなる変革をもたらそうとしています。

こうした戦略を着実に進めていければ、今後も成長していくと考えられます。インターネット広告の復調は、ただの一時的な現象ではなく、IT企業が積極的に投資を行い、取り組んできた結果なのです。

こうした取り組みにより、持続的な成長と業界全体の健全な発展を促すことが期待されています。

また、両社の戦略と成果は、他のIT企業だけでなく、広告業界やマーケティングのプロフェッショナルにとっても大きな示唆を与えています。

大手企業が攻めの変革を実行しており、今後が非常に楽しみな時代において、貴社も時代に取り残されないよう積極的にDXを推進してみてください。

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情報提供元: DXportal
記事名:「 Alphabet(Google)とMeta:ネット広告事業が増益!両社の未来戦略