根治につながる重要な発見です。

米国のジョンズ・ホプキンズ大学(JHU)で行われた研究によって、2型糖尿病によってインスリン生産細胞(β細胞)が機能不全に陥っていた原因と機能不全の解決方法が同時に発見されました。

研究者たちは糖尿病になった患者のインスリン生産細胞(β細胞)では、細胞内で物資輸送を担っていた輸送タンパク質(PITPNA)の量が大幅に減っており、インスリンの生産や分泌が渋滞を起こしていることを突き止めました。

そこで輸送タンパク質(PITPNA)を大幅に増やす操作を行ったところ、インスリンが分泌され、糖尿病に関連する症状の多くが回復できることが判明します。

研究者たちは糖尿病の治療において輸送タンパク質(PITPNA)が中心的な役割を担っており、増加させる方法をみつければ治療薬になると述べています。

研究内容の詳細は『Nature Communications』にて公開されました。

目次

  • 糖尿病の原因は細胞内の「輸送タンパク質」の枯渇にあった

糖尿病の原因は細胞内の「輸送タンパク質」の枯渇にあった

Credit:Canva . ナゾロジー編集部

2型糖尿病は主に生活習慣などによって慢性的に体内に糖分が蓄積することからはじまると考えられています。

常に体内に糖分が存在する状況になると、糖分を回収するために必要なインスリンの需要が慢性的に増加し、やがてインスリン生産細胞(β細胞)に機能不全を起こしてしまいます。

結果インスリンの供給が滞り、糖尿病に陥ります。

もし適切な治療を行わない場合、インスリン生産細胞はどんどん数を減らし、血糖値がさらに上昇していきます。

また血液中に糖分が蓄積すると、腎臓などの繊細な毛細血管を傷つけやすくなり、糖尿病発症から10~20年を経ると腎機能が急激に低下しはじめ、体内に老廃物が蓄積し、心筋梗塞や脳梗塞などを発症して死につながります。

この負の連鎖を止めるには最初のドミノである糖尿病を改善することが重要です。

しかし糖尿病と診断された段階で既に患者たちのインスリン生産細胞(β細胞)の量が24~65%も低下しており、インスリン分泌能力に至っては50~97%が失われていることが知られています。

そのため一般に「糖尿病は治らない病気」と認識されています。

生活習慣の改善により寛解と呼べる状態に戻すことは可能ですが、現状ではインスリン生産細胞(β細胞)の機能不全を回復する手段はなく、生涯にわたりインスリン分泌能力は低下したままとなってしまいます。

そこで今回、ジョンズ・ホプキンス大学の研究者たちは、機能不全に陥ったインスリン生産細胞(β細胞)を回復させる方法について調べることにしました。

もしインスリン生産細胞(β細胞)の機能を何らかの方法で回復できれば、再び体内にインスリンが供給され、血糖値が低下し、腎臓病など合併症が起こる心配もなくなります。

調査にあたっては、まずインスリン分泌を制御することが知られている因子(RNA miR-375)がどんな遺伝子と関わっているかが解析されました。

結果、PITPNA(ホスファチジルイノシトール転移タンパク質α)遺伝子と深く関連していることが判明。

またPITPNA遺伝子が生産するPITPNAタンパク質の役割を調べたところ、インスリン生産細胞(β細胞)内部でプロトインスリン(生産途中のインスリン)を生産ラインに沿って輸送したり細胞外にインスリンを分泌する、物質輸送の役割を果たしていることがわかりました。

例えるなら、インスリン生産細胞(β細胞)を工場とするならば、PITPNAは工場内部でベルトコンベアの役割をしていると言えます。

Credit:Canva . ナゾロジー編集部

また健康な人間と糖尿病患者のインスリン生産細胞(β細胞)を比較したところ、糖尿病患者のインスリン生産細胞(β細胞)ではPITPNAの量が大幅に低下しており、細胞内部でのインスリン「貨物」の運搬が大渋滞を起こしていることが判明します。

さらに異常な貨物の大渋滞はインスリン生産細胞(β細胞)を重度な機能不全に陥らせ、細胞として生存することも危うくしていました。

再び工場で例えるならば、糖尿病患者のインスリン生産工場ではベルトコンベアがほとんど動いていないせいでインスリンの生産ラインも出荷も停止しており、工場の維持に必要なエネルギー輸送も滅茶苦茶になっていたのです。

(※細胞内輸送システムの混乱によりインスリン生産ができなくなり、小胞体ストレスが増加すると共にミトコンドリアも機能不全に陥っていました)

そこで研究者たちは糖尿病患者のインスリン生産細胞(β細胞)に遺伝子操作を行い、少なくなっていたPITPNAを過剰生産させてみました。

すると驚くべきことに、細胞内部の輸送システムが回復すると共に、インスリンの生産と分泌も正常になり、糖尿病にみられていた多くの症状が回復していることが判明しました。

この結果は2型糖尿病はインスリン生産細胞(β細胞)に存在する物資輸送タンパク質(PTPNA)の不足が主な原因であり、不足の解消によって多くの症状の回復ができることを示しています。

Credit:Canva . ナゾロジー編集部

これまで2型糖尿病について多くの研究が行われてきましたが、特定のタンパク質の量的回復がインスリン生産および分泌能力を劇的に回復できるという結果は、極めて珍しくなっています。

そのため研究者たちはPITPNAの生産を促すような小分子をみつけることができれば、インスリン生産細胞(β細胞)の機能を回復し、糖尿病を治療する薬になると述べています。

なお現在研究者たちはPITPNAの働きにより、幹細胞をインスリン生産細胞(β細胞)に分化できるかどうかを確かめている、とのこと。

幹細胞はあらゆる種類の細胞に変化可能な多能性を持っている細胞であり、皮膚細胞を材料にして大量生産が可能です。

もし幹細胞を健康なインスリン生産細胞(β細胞)に変化させられる技術が確立すれば、糖尿病患者で減少しているインスリン生産細胞(β細胞)を再補充し、糖尿病を根本的に治療する手段となるでしょう。

ただ生活習慣を改めなければ、インスリン生産細胞(β細胞)は補充したそばからどんどん機能不全に陥っていきます。

インスリン生産細胞(β細胞)を補充し続ければ、糖尿病や合併症で死ぬことはなくなるかもしれませんが、生活習慣を改めない限りやがては別の病気になるのは間違いないでしょう。

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参考文献

New Research Sheds Light on Cause of Type 2 Diabetes https://www.newswise.com/articles/new-research-sheds-light-on-cause-of-type-2-diabetes

元論文

Restoration of PITPNA in Type 2 diabetic human islets reverses pancreatic beta-cell dysfunction https://www.nature.com/articles/s41467-023-39978-1
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 2型糖尿病完治の可能性!原因と治療ターゲットを同時発見!