今後、”寝不足運転”が交通違反となる日は近いかもしれません。

豪セントラル・クイーンズランド大学(CQU)は新たな研究で、前日の睡眠が5時間未満で運転した場合、それ以上の睡眠が取れている人に比べて、自動車事故のリスクが約2倍になることを発見しました。

これは血中アルコール濃度が法定基準値を超えていたときと同等の事故リスクです。

つまり、寝不足状態での運転は飲酒運転と同等の危険性があり、社会全体で見直す必要があるというのです。

研究の詳細は、2023年4月4日付で学術誌『Nature and Science of Sleep』に掲載されました。

目次

  • 4〜5時間未満の睡眠で事故リスクが2倍に!
  • 個人でなく「社会」で見直すべき問題

4〜5時間未満の睡眠で事故リスクが2倍に!

飲酒運転による自動車事故はここ20年で、世界的に大幅な減少傾向にあります。

飲酒検問の増加や罰則の強化、公的な呼びかけにより、多くのドライバーが注意するようになっているためです。

また飲酒運転の場合は、血中アルコール濃度が0.05%以上(※ 日本の道路交通法では0.03%以上)という明確な基準値があることも検査のしやすさと関係しています。

その一方で、疲労による自動車事故は過去20年間でほぼ減少していません。

事故全体の約20%は疲労が原因であるにも関わらず、飲酒運転と違って明確な基準値がないため、検問や取り締まりが難しいのです。

そこで研究チームは、疲労と密接に関連する「睡眠時間」を指標にして、事故リスクが高くなる基準値を探りました。

調査では、実験室やフィールドで行われた睡眠負債と自動車事故に関する61の先行研究を総合して分析。

(※ 睡眠負債:睡眠不足の蓄積により心身の不調を来してしまう状態のこと)

その結果、運転前24時間における睡眠時間が4〜5時間未満である場合に、自動車事故を起こすリスクが約2倍高くなることが判明したのです。

これは血中アルコール濃度が0.05%のときに見られる事故リスクと同じでした。

Credit: canva

それだけでなく、ドライバーの事故リスクは睡眠時間が1時間短くなるごとに大幅に増加していました。

前夜の睡眠時間が0〜4時間だった場合では、事故リスクに最大15倍の開きが見られたのです。

つまり、睡眠時間が短いほど疲労度も高まり、自動車事故のリスクも増大すると言えます。

チームは以上の科学的根拠にもとづき、「ドライバーが運転前に一定の睡眠時間を確保することを法的に義務付けることは合理的な判断である」と述べました。

もし飲酒運転と同じような基準値(日本では血中アルコール濃度0.03%以上)を設けるなら、「運転前に最低4〜5時間以上の睡眠」の義務付けを検討すべきでしょう。

他方で、研究者らは「疲労状態での運転を取り締まる前に、もっと多くのことを見直さなければならない」と話します。

というのも、飲酒はほとんどの場合、個人が選択して行うことですが、寝不足での運転は個人では改善しようがない部分があるからです。

個人でなく「社会」で見直すべき問題

たとえば、バスやタクシー、長距離トラックの運転手など、仕事上どうしても寝不足の状態で運転しなければならない人たちがいます。

他にも、夜間勤務で睡眠時間が少ない人、子供の夜泣きで寝不足の母親、慢性的に睡眠障害がある人など、まともに寝れていない状態で運転を迫られる人々がたくさんいるのです。

これは個人の力では改善のしようがなく、職場や家庭を含む社会全体での見直しを必要とします。

日本国内では、すでにバスやタクシー、トラック運転手が寝不足の状態で運転することは禁止されていますが、それ以外の業種であっても職務上寝不足の状態での運転を強制されてしまう場面は存在します。

こうした問題を包括的に解決する法律が今後必要になってくるはずです。

また、現在のところ個人の運転に対して睡眠時間にもとづいて規制する法律がありません。

Credit: canva

ダブルワークでドライバー業務を選択する人の睡眠不足は、当然単体の会社の規定だけで取り締まることが難しくなるでしょう。

また単に遊びすぎて寝る時間を確保できず、そのまま運転に出るような人も取り締まる必要があります。

睡眠不足運転が飲酒運転と同等に危険であるならば、これらを規制する法律は当然必要となってくるでしょう。

米ニュージャージー州には、ドライバーが運転前24時間における睡眠が0時間の場合に規制を受ける「マギーズ・ロー(Maggie’s Law)」という法律があります。

これは1997年に当時20歳の女子大生マギー・マクドネル(Maggie McDonnell)さんが、過労状態で運転をしていた男性の車に衝突され死亡した事故を受けて施行されたものです。

ただし0時間ということは1時間でも眠っていれば問題ないということになり、明確な基準に基づいた法律とは言い難いものです。

研究チームは現在、次なるステップとして、さまざまなコミュニティのメンバーや交通安全の関係者と疲労運転を規制するための協議を行なっているところです。

こうした研究が進んでいけば、睡眠不足運転に関する具体的な基準や、規制方法の策定も進んでいくでしょう。

これと同じ取り組みは日本でも必須となる可能性があります。

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参考文献

Driving on less than five hours of sleep is just as dangerous as drunk-driving, study finds https://medicalxpress.com/news/2023-04-hours-dangerous-drunk-driving.html N.J. Law Punishes Drowsy Drivers https://www.cbsnews.com/news/nj-law-punishes-drowsy-drivers/

元論文

How Tired is Too Tired to Drive? A Systematic Review Assessing the Use of Prior Sleep Duration to Detect Driving Impairment https://www.dovepress.com/how-tired-is-too-tired-to-drive-a-systematic-review-assessing-the-use--peer-reviewed-fulltext-article-NSS
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 睡眠が5時間未満の運転は「飲酒運転と同等の事故リスクを持つ」と判明!