北欧神話の最高神オーディンに関する最古の記述が発見されました。

デンマーク国立博物館(NMD)はこのほど、2020年に同国で出土した金製のブラクテアート(※)から、オーディン神に言及した世界最古の碑文を特定したと発表。

※ ブラクテアート(Bracteate)は、主に古代〜中世の北欧で生産された宝飾品として身につける平らで薄い金のメダル。

この碑文は5世紀初頭に作られたものとみられ、これまでの最古の記録を150年ほど更新することとなりました。

これは5世紀の時点でオーディンが人々に信仰されていたことを示す確かな証拠であり、研究主任のクリスター・ヴァスフス(Krister Vasshus)氏は「50年に一度の大発見である」と話しています。

目次

  • 「北欧神話」はいつ頃から語り継がれているのか?
  • 世界最古の「オーディン」の記述を発見!

「北欧神話」はいつ頃から語り継がれているのか?

北欧神話は元々、古代〜中世にかけて中欧からスカンディナヴィアに住んでいた「ゲルマン人」の信仰や伝説にもとづく神話の一種として誕生しました。

専門家によると、ゲルマン神話は紀元前1000年から紀元前後までには間違いなく作られていたという。

そこから北欧の人々が1世紀〜4世紀の間に自分たち自身の神話を作り上げ、北欧神話が徐々に形作られたと言われています。

しかし、それまで断片的だった北欧神話が体系的にまとめられたのは8〜10世紀頃とされ、さらに現存する文字記録の大部分は13世紀に作られたものとされます。

アイスランドの詩人スノッリ(1178〜1241)が13世紀に北欧神話をまとめた詩集『エッダ』を編纂し、これが今日に伝わる北欧神話の元になっています。

このあたりから北欧神話は正式に文字として残されるようになりました。

Credit: ja.wikipedia

北欧神話は主に最高神であるオーディンを中心とした物語で、神々と敵対する悪魔との対立を描き、「終末の日」いわゆる「ラグナロク」において両者の最終決戦が行われ、世界が崩壊すると伝えられています。

こうした話は今日のゲームやアニメにも着想を与えていますが、一方で、神々の王であるオーディンがいつ頃から人々の中で語られ始めたのかはよく分かっていませんでした

ところが、2020年にデンマーク西部イェリング近郊にある村ヴィンデレフで重大な発見がなされます。

およそ1500年以上前に地中に埋められたと見られる黄金で作られたブラクテアートが大量に出土したのです。

これらは同国で見つかった最も美しい宝物群のひとつであることから「ヴィンデレフの宝庫(Vindelev Hoard)」と呼ばれています。

Credit: Vejle Museum

専門家らは「敵から隠すためか、あるいは神々を鎮めるための貢物として埋めたのではないか」と考えています。

そして今回、デンマーク国立博物館の新たな調査で、このブラクテアートの一つに驚きの秘密が隠されていたことが発覚したのです。

世界最古の「オーディン」の記述を発見!

発見がなされたブラクテアートがこちらです。

金で作られた手のひらサイズの薄いメダルで、中央に男性の横顔と馬の彫刻があり、それを囲むように「ルーン文字」が見られます。

ルーン文字はゲルマン人が用いた文字で、彼らが住んでいた中央ヨーロッパ〜スカンディナヴィアで広く使われました。

Credit: Vejle Museum

同館のルーン文字専門家であるリスベス・イマー(Lisbeth Imer )氏と言語学者のクリスター・ヴァスフス(Krister Vasshus)氏は、このルーン文字の解読を実施。

ブラクテアートの摩耗が激しく、かなりの箇所で文字が消失しているため、作業は困難を極めたといいます。

しかし苦闘の末、「彼はオーディンの男である(He is Odin’s man)」という一文の特定に成功したのです。

かなり曖昧な一文ですが、おそらく「オーディンの男」とは中央に描かれた男性を指すと推測されます。

ブラクテアートの中には他に「ヤガ(Jaga)」あるいは「ヤガズ(Jagaz)」という単語も発見されました。

両氏は、このいずれかが男性の名前を示しており、彼は当時のデンマークに実在した王か支配者だったと見ています。

Credit: NMD –The Oldest Odin Inscription in the World Found in the Vindelev Gold(2023)

また、この碑文は紀元400年代の初めに作られたことが判明し、これまでのオーディンに関する最古の記述を150年ほど更新することとなりました。

以前の記録はドイツ南部ノルデンドルフで発見された6世紀後半のブローチに刻まれていたものです。

今回のブラクテアートはオーディンを直接描いたものではないものの、5世紀初めには人々がすでにオーディンを信仰していたことを示しています。

イマー氏は本研究の成果について次のように話しました。

「このルーン文字の解読はルーン学者としての私の長い経歴の中で最も難しいものでした。

しかし歴史上最も古いオーディンの名前の記録が見つかったことは、全くもって驚くべきことです」

一方のヴァスフス氏は「このような碑文は極めて稀であり、50年に1度見つかるかどうかです。今回の発見は、世界史の新たな1ページとなるものでしょう」と興奮気味に語りました。

また同館のレイン・ウィラーズレフ(Rane Willerslev)館長は「デンマークの歴史に関する重要な新知識を提供する、またとない画期的な発見であり、当館の研究者が全世界の注目を集めるような成果を上げたことは素晴らしいことです」と述べています。

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参考文献

Oldest reference to Norse god Odin found in Danish treasure https://phys.org/news/2023-03-oldest-norse-god-odin-danish.html The Oldest Odin Inscription in the World Found in the Vindelev Gold https://via.ritzau.dk/pressemeddelelse/the-oldest-odin-inscription-in-the-world-found-in-the-vindelev-gold?publisherId=13560791&releaseId=13672923 Oldest Inscription of ‘Odin’ Resets Beliefs About Norse Mythology https://www.ancient-origins.net/news-history-archaeology/earliest-odin-inscription-0018026
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 北欧神話の主神オーディンに言及した世界最古の黄金碑文を発見!